AI占い師の功罪-「見えすぎる社会」にどう向き合うか
2025年08月04日
思うに、AIは占い師に向いている。
もともと、西洋占星術や四柱推命のように、生年月日から決まったルールに従って意味を導き出す作業は、コンピューターの得意分野だ。誰が操作しても同じ結果が得られるため、正確かつ迅速な処理が可能である。
さらに言語生成AIは、断片的な情報を統合し、自然な文章として再構成するのが得意だ。占いのような象徴的な言語も柔軟に再構成できる。その上、AIはカウンセラー的な役割もこなす。チャット上で交わされる会話から文脈を読み取り、ユーザーの潜在的なニーズを踏まえ、感情に寄り添ったアドバイスまで提供する。ときには聞き役に徹することもある。
特に注目したいのは、文脈から性格、知的能力、価値観、リスク傾向といった内的属性を推測できる点だ。対話型AIとのやり取りに加え、eメールやSNSなどから取り出したテキストデータを読ませれば、言語パターンや語彙選択、論理構造などをもとに、ビッグファイブやMBTIなどの性格診断の枠組みで、個人的な傾向を推定することもできる。
外向けに体裁を整えた文章であっても、AIはその背後にある個人の傾向をそれなりに的確に読み取る。これは占いというより、占い用語でいう「コールドリーディング」に近い。ただし、AIは統計と機械学習を根拠としている分、精度も高く、侮れない。
文脈を読み解く技術は、既に様々な現場に応用され始めている。たとえばクレーム対応。AIは音声のトーンや言葉の選び方から文脈を読み解き、対応すべきクレームと拒絶すべきカスタマーハラスメントを区別する。店舗では、監視カメラに写る挙動から万引きの予兆を検知し、店員に通知するシステムも一部で導入されている。
金融機関であれば、ローンの返済可能性やリスク商品の適合性の評価の手掛かりとなる。AIが推定する性格因子でいえば、誠実性が高ければ返済遅延のリスクは低く、開放性が高ければ株式などのリスク資産を好む要素となる。ローン審査では決済履歴などから個人の信用度を評価するシステムが既に存在するが、AIが分析する内的属性が加われば精度はさらに高くなる。
ただし、AI占い師が「見えすぎる」ことには懸念も伴う。
ひとつは、多様性が重視される時代にあって、AIによる評価がむしろ単純化へと向かう可能性があることだ。性別や国籍といった表面的な属性の代わりに、AIが推定した性格や知的能力、価値観などの内的属性が、あたかも信用スコアに代わる「人格スコア」のように点数化され、個人の信用度や競争社会への適応力を一元的に判断する指標となりかねない。評価の公平性を高めるようにみえるが、実際には人間の複雑な内面を数値化し、画一的な基準で処理するという逆説をはらんでいる。
もうひとつは、AIの評価が結果的に正しいとしても、なぜ正しいのかわからないことだ。将棋AIが示す最善手がそうであるように、評価の根拠はシステムの内部に埋め込まれており、人間が理解できる形では説明できない。
AI技術の進展は劇的な効率性をもたらすが、その裏で、私たちは「見えすぎる社会」にどう向き合うかを問われている。現時点では、AIによる人格の可視化はあくまで推定レベルにとどまり、完全な精度には至っていない。とはいえ、足元の技術革新のスピードを踏まえれば今から対策を講じるに越したことはない。AIによって人間の内面が可視化され、評価が単純化される時代にあって、個人の尊厳や多様性をどう守るか。それこそが、次の社会設計の論点となる。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主任研究員 鈴木 文彦
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