ユーロ圏拡大から考えるEU連帯の難しさ
2025年07月02日
欧州委員会は2025年6月4日、ブルガリアが通貨ユーロ導入に向けた経済収斂基準を満たしたと結論付ける報告書を発表した。これによってブルガリアは2026年1月1日からユーロを導入する見込みとなり、2007年のEU加盟以来の悲願が約20年を経てようやく叶うことになる。ブルガリアが追加されることで、ユーロ圏はこれまでの20ヵ国から21ヵ国に拡大する。
だが、裏を返せば、EU27ヵ国中、6ヵ国は未だユーロを導入していないともいえる。残る6ヵ国は、チェコ、デンマーク、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スウェーデンである。デンマークについては適用除外が認められているものの、これ以外の5ヵ国については、ユーロの導入が法的に義務付けられている。
この5ヵ国でユーロが導入されていないのは、EUが定める必要条件を満たしていないからに他ならないが、一部の国はそもそもユーロの導入自体に反対しており、あえて条件を満たすための努力をしていないという事情がある。
例えば、スウェーデンは2003年にユーロ導入の是非を問う国民投票を実施し、反対多数となった経緯から、ユーロを導入しない方針を明確にしている。このため経済状況(物価、財政、金利)は必要条件を満たしているものの、ユーロ導入までに2年間の参加が必要とされる為替相場メカニズム(ERM Ⅱ)に参加していない。
また、ポーランドは2004年にEUに加盟した当初はユーロ導入を約束したが、その後に起こった世界金融危機の際に、独自通貨を維持していたことが危機の緩和に役立ったとの見方などから、ユーロの導入に反対する国民からの声が根強い。しかも、2025年6月1日に実施された大統領選挙の決選投票の結果、保守政党の法と正義(PiS)が擁立するナブロツキ氏が勝利したことで、ポーランドのユーロ導入はさらに遠のいた(大統領就任は2025年8月の予定)。ナブロツキ氏はEU内におけるポーランドの主権を強く主張し、ユーロの導入にも反対の立場である。大統領は議会に対する拒否権を持つため、ポーランド議会は親EU的な政策は進めづらくなる。
1999年にユーロが導入されてから四半世紀が経過してもなお、根強くユーロへの反対意見があることは、EU全体としての意思決定がいかに難しいかを物語る。足元では米国での第二次トランプ政権の発足をきっかけに、EUの連帯強化への機運が大きく高まり、実際、安全保障面などでは進展が見られている。だが同時に、EU加盟国の多くで自国第一主義を掲げる極右政党への支持が高まっているのも確かであり、加盟国間の利害調整に時間がかかる分野も多いと思われる。連帯強化によってEUの世界的なプレゼンスが増すことに対する期待はありつつも、危うさを抱えていることに注意が必要だろう。
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- 執筆者紹介
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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