米国人工知能学会(AAAI)参加を通じて垣間見た、AI研究と実務のこれから

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2025年05月29日

  • デジタルソリューション研究開発部 チーフグレード 參木 裕之

最新のデータサイエンス技術動向を把握し、自身のプロジェクトへの応用可能性を検討するため、機械学習分野のトップカンファレンスの一つである米国人工知能学会(AAAI)に2年連続で参加した。AAAIでは、機械学習、自然言語処理、コンピュータビジョンといった主要分野の研究発表が多くを占めるが、ゲーム理論やビジネス応用に関する研究も数多く見られ、それが本学会の特色の一つであると感じている。

昨年(2024年2月時点)に比べて、今年(2025年2月時点)は大規模言語モデル(LLM)関連の研究が圧倒的に増加していたのは言うまでもないが、生成AI分野ではLLMだけでなく、拡散モデル(Diffusion model)(※1)に関する研究も非常に活発だった。特に画像・音声生成における高精度な出力や、拡散モデルを用いたマルチモーダル生成など、実用化を意識した応用研究が目立っていた。

強化学習の分野では、マルチエージェントシステムの動的な環境下での協調・競合戦略の高度化、さらには大規模言語モデルと統合した意思決定支援への応用といった先端的な研究が見られた。これにより、ゲームやロボティクスのみならず、対話システムや自律的なシミュレーション環境への展開の加速が期待されるだろう。

中でも特に印象的だったのが、グラフニューラルネットワーク(GNN)(※2)やFederated Learning(連合学習)(※3)に関する研究の増加である。GNNは、薬剤開発やソーシャルネットワーク分析、サプライチェーンの最適化など、構造的なデータを扱う実世界の課題に対して着実に実装が進んでおり、実務適用の報告も増えてきた。一方、Federated Learning(連合学習)では、プライバシー保護や分散環境における効率的な学習アルゴリズムに関する研究が深化している。特に医療や金融といった高いデータ機密性が求められる領域での実証研究や、IoTデバイスとの連携によるスケーラブルな学習システムの実現が注目された。中央集権的なデータ収集が困難なシナリオにおいて、連合学習の実用性がようやく現実味を帯びてきた印象がある。

また、これらの要素技術を組み合わせた複合的な研究も多く見られた。たとえば、GNNをFederated Learning環境下で訓練するアプローチや、LLMとGNNを統合して文脈を考慮した構造的理解を実現する試みなど、研究分野の垣根を越えた融合とスケールアップの動きが活発化している。こうした傾向からは、AI研究の高度化と同時に、応用領域の拡大と現場への浸透が着実に進んでいることが伺える。

昨年との最も大きな違いは、「AIエージェント」の登場である。今年の基調講演は、スタンフォード大学のAndrew Ng教授によるエージェント型ワークフロー実現の話から始まり、AIによるプロトタイピングの高速化(従来比10倍以上)、さらにはマルチモーダル技術の進展によって新たなユーザー体験が生まれていることなど、現在の潮流を捉えたトピックが数多く紹介され、非常に印象的だった。

講演の最後には「責任あるAI」にも言及があり、AIの開発スピードが飛躍的に向上している一方で、リスクの所在は依然としてアプリケーション側にあるという指摘がなされた。この点は、従来のシステム開発や運用と変わらない部分であり、AIの進化によって開発工程が加速しても、プロダクトのリリースそのものが必ずしも同じように早まるとは限らない。プロジェクトとしては、そこを見誤らず慎重にマネジメントする必要があると感じた。

また、「AAAI 2025 PRESIDENTIAL PANEL ON THE Future of AI Research」(※4)というレポートが、会長名義で公開されており、AI研究の将来に関する重要分野を幅広く概観している。AIの推論能力、事実性、信頼性、さらには倫理や安全性といった観点まで網羅されており、今後のAI開発や応用を考える上で非常に示唆に富んだ内容となっている。分量は多いものの、まだ読んでいない方にはぜひ一度目を通していただきたい。

(※1)データに徐々にノイズを加えてから元に戻す過程を学習する生成モデルで、特に高精細な画像生成に強みがある。
(※2)※ノード(点)とエッジ(線)で構成される「グラフ構造」のデータを学習できるAIモデル。社会ネットワークや分子構造の解析などに用いられる。
(※3)複数のデバイスやサーバーがローカルデータを使ってAIを学習し、その成果(モデルのパラメータ)のみを中央に集約する手法。分散学習とプライバシー保護を両立する。

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參木 裕之
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