対話ツールとしての人的資本ストーリー
2025年05月21日
人的資本の有価証券報告書への開示義務化が開始して3年目に入り、人的資本経営に対する自社独自の考え方を示す企業の裾野が拡がっている。人事施策を全体戦略などと紐付け、ストーリー立てて客観的に示す動きが加速しており、ステークホルダーとの対話に向けた進化がうかがえる。
金融庁より公表されている「記述情報の開示の好事例集2024」においても、投資家・アナリスト・有識者が開示に期待する主なポイントとして、経営戦略と人材戦略との関連、人材戦略と企業価値向上とのつながり、人的資本に関する非財務情報と財務情報の連動、人的資本に関する財務データの開示、人的資本に関する戦略と指標及び目標との連動などを挙げている(※1)。
これら一連の流れを示すためには、可視化・定量的な要素を抽出し、要素同士のつながりや仮説検証を継続的に行っていくことが必要となる。関係性を見るための要素や材料は自社内に多数あるだろうが、既存の定量指標だけでなく、暗黙的・感覚的に運用していた要素なども洗い出し、これを裏付けるアクションやデータによる補完可否を含めて検討を行うことをおすすめしたい。
感情を持つ人間について、定量的に測定できる範囲には限界があるかもしれない。定量化が困難な領域もあろうと考えるが、これらのプロセスを通じて、測定可能な価値とそれ以外の価値を認識することができれば、自社の価値創造を理解する上で有用な情報となる。
企業として全体像を示してストーリーを伝えることは、株主・投資家だけでなく、社員や採用における対話ツールとしても有効となる。各々の施策・アクションと経営戦略・企業価値とのつながりを体系的に理解することで、社員自身が行動する上での動機付けにもなるだろう。また、若い世代は成長環境及び社会貢献を企業に望む傾向が強い。人的資本投資・教育やキャリア形成などが自身の成長、企業価値及び顧客への提供価値とのつながりの中で示されることは、彼らの企業選定における強力なポイントとなろう。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 元秋 京子
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