新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)を通じたサステナブルファイナンスの発展

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2025年05月19日

新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)は、2023年に策定された「資産運用立国実現プラン」(内閣官房新しい資本主義実現本部)の施策の1つである。日本では、投資運用業の参入要件を満たすための体制整備の負担が大きい、運用資金の確保が困難である等の理由から、資産運用ビジネスへの新規参入が難しいことがかねてより指摘されていた。資産運用ビジネスへの新規参入を支援し、業界における競争の促進、多様な投資戦略や手法を通じて市場に新しい価値を提供することが必要であるという認識のもと、海外の年金基金やソブリンウェルスファンド等で採用されている“Emerging Manager Program”を参考に、日本版EMPが導入された。

政府の取り組みは大きく3つある。1つ目はアセットオーナーと金融機関への働きかけである。具体的には、アセットオーナー・プリンシプルに新興運用業者の取扱いについて盛り込む、金融機関に対して新興運用業者の積極的な活用等を要請する、金融機関グループ等における取組事例を把握・公表することなどが挙げられる。2つ目は、新興運用業者が発掘されやすくなる環境の整備である。エントリーリスト(新興運用業者を一覧化したリスト)を官民連携の下で提供することや、資産運用フォーラムの開催を通じて日本市場の魅力や可能性について発信することが含まれる。3つ目は資産運用ビジネスを始めやすくする環境整備である。ミドル・バックオフィス業務の外部委託や運用権限の全部委託が可能となるような規制緩和、金融創業支援ネットワークや拠点開設サポートオフィスの拡充などが行われている。

エントリーリストに掲載された新興運用業者の投資哲学や運用スタイルをみると、独自性に富んでおり非常に興味深い。経済的なリターンだけでなく、環境や社会課題の解決を掲げる新興運用業者も複数ある。日本版EMPはサステナブルファイナンス(※1)の担い手の育成にも貢献し得る制度と言えそうだ。

(※1)金融庁サステナブルファイナンス有識者会議「金融庁サステナブルファイナンス有識者会議 第四次報告書」(2024年7月9日)では、サステナブルファイナンスを「持続可能な経済社会システムの実現に向けた広範な課題に対する意思決定や行動への反映を通じて、経済・産業・社会が望ましい在り方に向けて発展していくことを支える金融メカニズム、持続可能な経済社会システムを支えるインフラ」と位置付けている。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美