「令和の米騒動」と米消費の行方

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2025年05月16日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

米の販売価格が大きく上昇している。消費者物価指数(総務省)でみると、2025年3月の「米類」は前年比+92.1%と極めて高い上昇率を記録した。昨年には、一時小売店の棚から米袋が消えるなどしたため、「令和の米騒動」と報じられた。その後に新米の出荷、さらには政府備蓄米の放出などが行われたことで、現在は極端な品薄にはなっていない印象だが、小売価格は高水準のままだ。その理由については様々に解説されているが、ここでは特に論じない。

筆者が注目したいのは、一連の「米騒動」によって、日本の米消費に構造的な変化が起きる可能性だ。参考となり得る前例がある。1993年には記録的な冷夏で米が極端な不作となり(作況指数(農林水産省「作物統計」)が全国平均で74と、第2次大戦時を除いて最低)、タイ産米等の緊急輸入でしのいだ。この場面での米の価格高騰は1年程度でほぼ解消し、その後は長期的には価格が低下傾向となった。しかし、1人当たりの米消費量の推移を見ると、それまで減速傾向にあった消費者の“米離れ”が、1993年のショックを契機にやや再加速したようにみえる(図表参照)。米は主食であるものの、決して代替不可能ではないことを示唆している。そして今回は、米価格上昇が2年続き、上げ幅もより大きいことから、消費者選好における米の位置づけが一段と変わる恐れがあると考えられる。

昨今、消費者の健康志向が高まる中で、食品分野における米の立場はあまり良くない印象だ。炭水化物を抜く、あるいは減らすダイエットはもはや一種の定番となっているが、米はその中でも特に消費削減の象徴となりやすい。日本人の食事を通じた平均的なエネルギー摂取量は近年わずかな増加へ転じている模様だが、炭水化物比率については引き続き低下傾向となっている(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「栄養素等摂取量」)。このように米にとって逆風の下での価格の大幅上昇は、米食に関わるトレンドを大きく変えてしまう可能性があろう。例えば、同様に主食である小麦について、直近の米価格との比較では、パンや麺等はカロリー当たりのコストパフォーマンスが優位との試算もある。また近年、小麦の自給率は徐々に上がりつつある。

米の生産や流通については、食料安全保障の観点から特別視されることもある。しかし、農林水産省によると日本の食料自給率はカロリーベースで40%に満たず、ここ20年程度はほぼ横ばい推移で改善は見られていない。今後も日本の「食」を支えるためには、農業全般の生産性向上はもちろん、より安定的な自由貿易体制の構築などを含め、官民が協力してあらゆる方法を考える必要があるだろう。米食は日本の食文化の代表として扱われてきたが、その伝統は一つの正念場を迎えたといえよう。

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佐藤 光
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