デザインで金融×AIの未来を創る

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2025年04月17日

  • デジタルソリューション研究開発部 シニアITリサーチャー 木下 和彦

テクノロジーの進化は、私たちの生活やビジネス体験を劇的に変え続けています。ウェブからスマートフォンへ、そして現在進行中のAIエージェント(※1)による新たな変革は、不可逆的なものとなっています。スマートフォンが「いつでもどこでも」デジタル空間にアクセス可能なパーソナルデバイスとして普及したように、AIエージェントは人間とテクノロジーの関係性をさらに進化させています。

AIエージェントと企業の課題
AIエージェントは企業にとって高い可能性を秘めています。しかし、既存の業務プロセスや製品・サービスに単に組み込むだけでは、コスト削減以上の価値を生み出すことは難しいでしょう。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)が未成熟な企業では、AIエージェント導入による成果が期待できないケースが多くなると考えられます。
ここで重要となるのが「デザイン」の役割です。AIエージェントと他のテクノロジーや人間の役割分担を明確化し、それらを統合する形で適切にデザインすることで、初めてAIエージェントの力を最大限活用できるソリューションが生まれます。
デジタルへのアクセス性が高まる一方で、「オフラインでいたい」という新たなニーズも見逃せません。例えば、店舗などのリアル空間は依然として重要であり、新たなニーズに応える場として再認識されています。デジタルとリアルを融合した一体感ある体験をデザインすることが差別化の鍵となります。
また、人間がAIエージェントを利用する際には従来型のUIでは制約があることが指摘されています。直列的な時系列のチャットや階層構造ではなく、複眼的な視点を前提としたUIによってダイナミックな思考を実現させる必要があります。さらに、人間だけでなくAIエージェント自身もユーザーとなることを前提としたシステム設計も重要です。

金融サービスにおけるデザインの課題
金融サービスでは信頼性と公共性が重要視されますが、顧客との接点が多い金融サービスには依然として多くの「負の体験」が残っています。例えば、オンラインで完結できない手続きや、チャネル間の連携不足による体験の一貫性の欠如が挙げられます。
このような課題が存在する金融サービスにAIエージェントを組み込む際には慎重な設計が求められます。法規制対応やレピュテーションを含めたリスク管理だけでなく、分かりやすさ・使いやすさというユーザー体験とのバランスも重要です。
さらに、BaaS(Banking as a Service)やAPI技術によって金融サービスはライフスタイル全体に溶け込みつつあります。このような環境では、自社サービスだけでなくライフスタイル全体を見据えたデザインが求められます。

戦略的デザインへの投資
これまで述べた課題を踏まえ、戦略的デザインへの投資が重要です。
デザインは単なる表層的改善ではなく、企業全体で理解されるべき戦略的要素です。本質的なユーザーニーズを見極めることと社内のデザインへの理解促進にはコミュニケーションが不可欠であり、それこそがAI時代でもデザイナーの重要な役割となります。
近年注目されている「デザインシステム」「インクルーシブデザイン」「アート思考」などの個々のアプローチも大切ですが、それ以上に着実な実績構築が最終的に具体的な成果や競争優位につながります。組織内へのナレッジ蓄積やカスタマージャーニー統合など横断的連携を推進し、デザイナーが本来業務に集中できる環境構築が求められます。
AIエージェントによってデザインへのハードルは下がりつつあります。今こそ企業はデザインへの投資を再検討し、自社状況や目標に合わせてパートナーを見極めることが成功への第一歩です。プロダクト/サービスデザインやUX/UIデザインだけでなくシステム/AI開発など多様な領域で強みを持つ専門家との連携が鍵となります。

(※1)AIエージェントは、情報収集・分析を通じて最適な選択肢を提案し、目標に基づき自律的にタスクを実行します。また、複数のAIエージェントが協調して動作することで、より複雑な行動を実現する仕組みをマルチエージェントシステムと呼ばれています。

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木下 和彦
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デジタルソリューション研究開発部

シニアITリサーチャー 木下 和彦