米国経済見通し 過去とは異なる政府閉鎖

政府閉鎖による悪影響は従来よりも長期化する恐れ

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2025年10月21日

  • 経済調査部 主任研究員 矢作 大祐
  • ニューヨークリサーチセンター 研究員(NY駐在) 藤原 翼

サマリー

◆米国では、2026財政年度が開始する10月1日までに、裁量的支出に関する本予算や、一時的な支出を手当てするつなぎ予算が成立しなかったことで資金不足が生じ、防衛等の必要不可欠な機能を除いて連邦政府は閉鎖することとなった。予算が未成立となっている主因として、2025年末に失効予定の医療保険(オバマケア)の補助金延長をめぐり共和党と民主党の意見の隔たりが大きいことがある。政府閉鎖が長期戦の様相を呈する中で、注目されるのは景気への影響だ。政府閉鎖が長引いた過去のケースに注目すると、景気への悪影響は政府支出で顕在化するものの一時的なものであり、民間最終需要といったその他の内需項目への影響は限定的と考えられる。

◆他方で、今般の政府閉鎖では、過去のケースに比べて景気への悪影響が拡大する恐れがある。トランプ第二次政権は政府閉鎖を契機にインフラプロジェクトの資金凍結を恒久化し、一時帰休となっている連邦政府職員の遡及的な給与の支払いを保証せず、リストラも実施するといった政府効率化を進めている。つまり、今般の政府閉鎖は、単に連邦政府の機能が一時的に停止するという事態を指すだけではなく、政府支出の抑制政策の延長線上にあるといえよう。こうした政府閉鎖を契機とした政府支出の抑制政策は、たとえつなぎ予算で一時的に政府閉鎖が解消しても、2026財政年度予算が成立するまでは繰り返される可能性がある。そして、その度に政府支出や個人消費・設備投資、ひいては米国経済全体に下押し圧力がかかり得るといえよう。

◆なお、政府閉鎖によって、ほとんどの経済指標の公表が停止されており、景気の良し悪しが判断しにくくなっている。民間データ等を基に、大和総研が作成した米国週次景気指数によれば、9月末までは堅調さを維持していたことが示唆される。しかし、景気指数の構成データの一つであるクレジットカードデータ等による消費動向は10月第1週に落ち込んでおり、政府閉鎖の影響が個人消費の弱含みという形で出始めた可能性がある。景気の下振れリスクが高まる中で、10月末の次回FOMCでは0.25%ptの利下げが見込まれる。他方で、12月のFOMC以降の金融政策運営に関しては不透明な状況が続きやすい。当面は利下げに対する過度な楽観も悲観も禁物だろう。

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