なぜ市場は第2次トランプ政権の経済政策運営を見誤ったか
2025年03月26日
トランプ政権による追加関税措置や不法移民対策などの政策が米国経済を揺るがしている。アトランタ連銀のGDP Now(実質GDP成長率のリアルタイム推計値)では、2025年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率でマイナスに転じる可能性が示唆されている。下振れの主因は追加関税措置前の駆け込み輸入の急増だが、米国経済の屋台骨である個人消費も減速感を強めている。こうした中、市場も景気悪化を織り込み始め、米10年債利回りは1月半ばから低下し、S&P500指数は2月後半から大きく下落した。トランプ大統領は選挙中から景気に悪影響を及ぼす追加関税措置等の実施を提起しており、市場も認識はしていた。しかし、追加関税措置等を矢継ぎ早に実施したり、景気悪化リスクが急激に高まったりするとは、市場も最近まで想定していなかった。
では、なぜ市場は第2次トランプ政権(2025年1月-)の経済政策運営を見誤ったのだろうか?トランプ大統領が主張している経済関連の政策を概観すると、①追加関税措置・不法移民対策(以下、関税・移民政策)、②経済成長の促進(以下、経済成長)、③インフレの抑制(以下、物価抑制)という3つに大別できる。第1次トランプ政権(2017年1月-2021年1月)は、関税・移民政策を実施したものの、内容は限定的(関税は対中国が主、不法移民は流入抑制)であり、インフレの問題は顕在化しておらず、経済成長を配慮しやすかった。結果、第1次トランプ政権には、コロナ禍を除けば、大幅な景気悪化は見られなかった。経済成長に左右されやすい市場は、第2次トランプ政権も第1期同様であると期待していた。
しかし、2024年までの景気の堅調さが、景気への多少の悪影響に対するバッファーとなり得たことで、第2次トランプ政権では関税・移民政策は過激化(関税対象は広範、不法移民は国外退去)した。加えて、コロナ禍を経て、物価抑制が優先課題となったことで、迅速に経済成長を配慮することが難しくなった。FRBが直近3月のFOMCで2025年の利下げ予想幅を0.50%ptで据え置いたのも、景気悪化リスクが顕在化するまでは、物価抑制を重視し、様子見せざるを得なかったと考えられる。市場は堅調な景気や高インフレという米国のマクロ経済環境の変化を考慮して、第2次トランプ政権の経済政策運営を考えるべきだったといえる。
では、先行きの経済政策運営はどうなるだろうか?当面は関税・移民政策と物価抑制への注力が想定される。FOMCの様子見姿勢に加え、財政の悪化懸念等の中で減税による景気の下支え策が早期には見込みにくいことから、経済成長への配慮は短期的には期待しにくい。2025年の年央にかけては景気の下振れリスクに直面し続けることが想定される。他方で、2025年後半以降は関税・移民政策と経済成長への配慮へと移行していくと考えられる。追加関税措置等によるインフレ再加速が一時的なものとなれば、徐々に物価抑制の優先順位は低下し、2025年後半にも利下げが可能になる。また、第1次トランプ政権に成立した減税の期限が今年末であることも、2025年後半に新減税策の成立を促すことが見込まれる。
最後に、トランプ大統領が関税・移民政策をあきらめるという心変わりはあるのだろうか。トランプ大統領は、3選禁止規定の下、2028年の大統領選挙には出馬できないこともあり、多少の景気悪化は覚悟しており、現時点で関税・移民政策をあきらめるインセンティブが少ない。裏を返せば、関税・移民政策をあきらめざるを得ないほどの景気悪化やインフレ再加速、そして両者の併存(=スタグフレーション)に直面した場合が挙げられる。つまり、誰も望まない事態に米国経済が陥った場合といえ、早期のトランプ大統領の心変わりを過度に期待すべきではないだろう。
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経済調査部
主任研究員 矢作 大祐