トランプ2.0が生み出す不確実性への対応
2025年02月28日
2025年1月に国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(※1)(サブタイトルは「世界成長:まちまち、かつ不確実」)が公表された。前回の2024年10月の同見通しから変化はなく、2025年と2026年の世界経済の成長率は3.3%と予測されている。IMFは、同時に今回の見通しにおいて中期的には「世界経済の成長率は2025~2026年の平均を下回り、5年先の予測が約3%」として経済成長の下振れリスクを指摘し、その程度は「国によって異なる」としている。そのリスクとは、第二次トランプ政権(いわゆるトランプ2.0)における関税政策(※2)の保護主義的色合いが、これまで以上に強まることに起因するサプライチェーンの混乱である。2024年4月の同見通しでは、2024年には、世界的なCovid‐19パンデミックの影響によるサプライチェーンの混乱に端を発する“荒波”が消えたとされた。しかし、2025年以降に復活が予想される“荒波”は、トランプ2.0で想定される1)保護主義的な関税政策によるグローバル・サプライチェーンの混乱、2)国際協調から一国主義への政策転換により、投資家の脱炭素を巡る思惑の相違がもたらす原油市場のボラティリティの高まり、3)金融政策における緩和姿勢への転換の中断に伴う想定外の米国の中長期金利高の止まりとなる。
一方で、トランプ2.0が復活させる“荒波”の根底には、中長期的に醸成されてきた米国民の「民意の変化」に基づく中長期的な「政策の潮流」がある。例えば、中国の台頭等による自由貿易から保護貿易重視の政策支援、あるいはグローバリゼーション化での自国の製造業の衰退による国際協調主義から一国主義重視の政策支援という民意の変化である。同時に、それぞれの主義(イデオロギー)の対立が表面化し、支持する政策の左・右傾化による分断がもたらす「政策の不確実性」もある。これらが世界経済を不確実にさせる根本的な要因としてあり、それらの解決には当然ながら時間がかかる。IMFの同見通しにおいても「ベースラインシナリオの中期的なリスク(筆者注:経済成長の見通しを意味する)は下方に傾いている」としており、上記の認識からの記述と考えられる。
これらを踏まえると、トランプ2.0における政策変更への短期的な金融・経済政策の対応だけではなく、自国経済・産業の構造改革の推進、リベラルな国際秩序を維持するためのWTOなどの多国間ルールのための国際機関の機能強化を通じて中期的な成長見通しを引き上げることが必要となろう。例えば、多国間ルールでは、トランプ政権下で取られ得る通商政策のうち、ビジネスに好ましい効果が期待されるものもある。その1つが、バイデン政権が回避していた自由貿易協定(FTA)交渉の再開と考えられる。IMFの同見通しでは、「各国の次期政権が既存の貿易協定を再交渉し、新たな取り決めを成立させることができれば、世界経済活動が活性化する可能性がある」としている。多国間のFTAを先導してきた日本が強みを発揮できる分野であろう。トランプ2.0が生み出す不確実性に対する日本あるいは日本企業のレジリエンス(耐久性)を高めるための取り組みは、様々な視点から検討し、短期的な不確実性に左右されず、中長期的に着実に取り組んでいく必要もあろう。
(※2)ベースライン関税とトランプ互恵通商法案が該当する。前者は全ての輸入品に対して一律の関税措置であり、後者は米国へ輸出する国が課している関税率と同じ関税率を米国輸入時にも適用する関税措置である。その他に中国に対する追加関税率の60%への引き上げや、メキシコに対する自動車の関税率の大幅な引き上げなども含まれる。
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主席研究員 内野 逸勢