米国経済見通し 関税激化はいつまでか

米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい

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2025年07月22日

  • 経済調査部 主任研究員 矢作 大祐
  • ニューヨークリサーチセンター 研究員(NY駐在) 藤原 翼

サマリー

◆トランプ大統領は、8月1日より適用予定の新たな関税率を公表した。7月9日より適用予定だった上乗せ税率の適用期限を実質的に3週間強延長したともいえるが、貿易相手国・地域との交渉が難航すれば、実際に新たな関税率が課される恐れがある。新たな関税率が実施されれば、実効関税率は現時点の8%強から20%強まで上昇することが見込まれ、景気・インフレ率への悪影響は大きくなることが想定される。

◆そもそも、トランプ大統領が関税措置を激化させられた背景には、市場が落ち着いており、足元の景気が底堅いことや、7月4日に成立したトランプ減税2.0による景気下支え期待があるだろう。他方で、追加関税措置に対して、2024年の大統領選挙でトランプ大統領に投票した支持者の不満は根強い。そして、世論の不満に呼応し、共和党議員も懸念を募らせている。

◆トランプ大統領にとって、2026年度の予算策定やFRBの幹部人事といった重要な議題が残り、共和党議員との関係性が引き続き重要だ。トランプ大統領は追加関税措置に対する懸念を解消する必要がある。2026年11月の中間選挙の候補者選定が今年秋頃より始まることから、共和党議員は世論を重視しやすい。とりわけ、タウンホール・ミーティングなどが開催される8月にかけて、共和党議員がトランプ大統領に対して追加関税措置の再調整に向けた圧力を強めると考えられる。

◆また、現時点で景気が落ち着きを見せているとはいえ、既存の追加関税措置によって、インフレ率には再加速の兆しが見られる。インフレ率が高止まりすれば、家計の実質的な購買力は抑制され、個人消費、ひいては景気を下押しする恐れがあるとともに、FRBによる利下げも遠のく。トランプ減税2.0に加え、債務上限問題の解決によって、国債需給が悪化するリスクもある。こうしたインフレ再加速や財政悪化リスクなどによって金利上昇が顕著になれば、追加関税措置に対する逆風は強まり、トランプ大統領にマイルド化を促すことが想定される。政治・経済・市場動向を踏まえれば、トランプ政権は新たな関税率を一時的に適用するにしても、長い期間にわたっての維持はしづらく、その不透明感のピークは7-8月となろう。

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