投資先としての米国に不安はないか
2025年07月23日
第2次トランプ政権の発足以降、グローバル経済・市場は翻弄され続けている。米国市場では、2025年4月初めの相互関税発表を受けて一時、株・債券・為替がトリプル安の様相を呈するなど、米国からの資本逃避を想起させる動きも起きた。その後は、株価は堅調さを取り戻し、債券市場も為替市場も落ち着いた動きを示しているものの、かつてのように米国を信頼できる市場として位置づけてよいのか、一部に迷いが生じている可能性もあろう。
トランプ大統領の政策は様々な面で米国やグローバルの経済・市場の先行きに不安を与えるものだ。第一に国際貿易の抑制を確実に招く関税政策である。他国の輸出を阻害するのみならず、米国内の経済活動をも阻害する。米国の製造業再興というのは、いったいどれだけ現実味があるのだろうか。第二に移民政策のさらなる強化である。過去数十年の米国経済の成長は、移民の流入による人口増と消費の拡大が少なからず支えてきたが、それを大きく絞ろうとしている。不法移民は確かに問題ではあるものの、大学に対する締め付けを見ていると、留学生の受け入れも今後減っていく可能性がある。シリコンバレーに象徴されるように、米国において大学など研究機関はイノベーションの核として重要な機能を提供しているが、その研究機関には世界各国から学生や研究者が結集するからこそ最先端を維持している。学生や研究者の受け入れが縮小した場合、米国におけるイノベーションやベンチャーエコシステムは今まで通りとはいかなくなる懸念はないのか。
もちろん、こうした将来に向けた懸念だけで対米投資資金がすぐさま逆流すると考えるのは拙速に違いない。今打ち出している政策が緩和される可能性があるほか、足元の米国企業はIT産業を中心に好調を維持している。AIのさらなる普及も米国企業の優位性を高める方向に作用するだろう。加えて、米国の資本市場は、その懐の深さにおいて世界に比肩する市場はないと言っても過言ではない。規模もさることながら、市場の多様性の深さも強みである。すなわち株式、債券、商品、オルタナティブ資産など多様なリスクレベルの存在と、それを支える年金や各種ファンドなど多様な投資家の存在である。加えて基軸通貨国としての強みも今のところ揺るぎはない。
過去数十年にわたり、金融資本市場の拡大は世界経済のグローバル化に裏打ちされたものであり、その中心が米国であった。NISAを含めた国内資金の投資先も米国に偏重していた印象がある。グローバル経済・市場の根幹が変質を余儀なくされつつある中、本来なら投資先の分散化を検討するのが自然であろうが、当面、受け皿が十分かと言えばそうではなく、消去法的に米国市場を中心に据えざるを得ない。しかし、日本の投資家が国内投資にもっと目を向けられるように、国内市場の厚みを増していく取組みも必要だろう。
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