観光施設における二重価格制度導入の是非
2025年02月21日
先日、久しぶりに奈良・京都を訪れた際、外国人観光客の多さに驚いた。ニューヨークに住む友人は、「日本の物価の安さと円安で、日本の観光料はほとんどタダみたいなものだね」と冗談交じりに話していた。近年、日本のインバウンド需要は急速に回復し、訪日外国人観光客数は増加している。外国人の宿泊客が多い国際的なホテルチェーンの宿泊料金が高額に設定されていることは、その表れだろう。
一方、観光客の集中は、地元住民の生活に影響を及ぼし(交通渋滞や騒音、ゴミの増加など)、文化財・歴史的建造物への負担の増加や、その維持管理費用の増大といったことが問題となっている。地元住民が観光施設に入れなくなるなど、その他多くの問題もある。
このような問題に対処するためには、観光客数を適切に管理し、観光地の持続可能性を維持し、地域社会に利益をもたらす仕組みを整える必要があると思われる。
問題解決の参考の一例になるのが、地元住民と観光客で異なる料金体系を採用している米国の博物館や美術館である。例えば、ニューヨーク市にあるメトロポリタン美術館では、ニューヨーク州の住民には、入館料を自ら決めることができる”Pay-What-You-Wish”を採用しており、例えば1ドル=約150円で入館することも可能である(最低1セント)のに対して、州外からの入館者は大人の場合、30ドル(約4,500円)を払う必要がある。住民かどうかはチケット購入の際に身分証明書(運転免許証など)を提示することにより判断される。
このような二重価格制度は、米国では地元住民への優遇措置という点にその主眼があると思われるが、同制度を日本の観光施設に導入すれば、押し寄せる多くの外国人から多額の観光収入が得られ、文化財の維持管理費用を確保できるとともに、観光客の集中を緩和するなどのオーバーツーリズムへの対策にもなるかもしれない。もちろん、地元住民が観光施設にアクセスしにくくなるといったことを防ぐこともできるだろう。実際に日本でも兵庫県姫路市が姫路城の入城料について、2026年3月から二重価格制度を導入する方針を公表している(18歳以上の大人では、市民は現行の1,000円、市民以外は2,500円)。こうした動きは今後、日本の観光施設において追随されると思われる。
ただし、このような制度の導入に当たっては、二重価格の料金設定次第で逆に外国人観光客の想定以上の減少に繋がる可能性や、料金設定の根拠などが慎重に議論されることになるだろう。地元住民と観光客の両者にとって、持続可能な仕組みづくりが求められる。
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金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬