国民の「年金不信」は誤解によるものだけなのか?
2025年02月12日
今年の通常国会は、年金制度改革関連法案の行方が大きな注目点だ。すでに、各種メディアやSNS(交流サイト)では、公的年金制度を巡る議論が活発化しつつあるように思われる。筆者は、2000年頃の「自己責任論」に直面した就職超氷河期世代であり、これまで公的年金に頼らなくてもいいように資産形成を進めてきた(※1・2)ことから、最近の様々な議論をやや第三者的に眺めている。今回は、そうした視点から、国民の年金不信に関する議論で気になった論点を1つ取り上げたい。
国民の年金不信は公的年金制度に対する誤解に基づくものが多く、その誤解を正すことが大切という趣旨の意見を目にすることが多い。国民に正しい理解を促すために、厚生労働省などによる年金広報や年金教育のさらなる取り組みが必要という声もある。そして、このような議論に対して、筆者は、国民の誤解がなくなれば、本当に年金不信を払拭できるのかという点が気になっている。
代表的な誤解の例としては、公的年金制度は持続可能でなく将来破綻するという「年金破綻論」や、将来の年金給付水準が大幅に減らされるというものが挙げられる。これらは、その定義や程度による面もあるが、基本的には少々極端な考え方に基づく誤解であり、そうした誤解を解くことが必要という点に異論はない。しかし、現実には、公的年金制度をしっかり理解しているにもかかわらず、それでも不信感を抱いているという人が少なくない。
その背景の1つと考えられるのが、公的年金制度のいわゆる「ゴールポスト」がこれまで何度も動かされてきたという経緯だ。例えば、過去の年金制度改革の結果として、昔に比べると、年金受給開始年齢が遅くなり、保険料が増えて負担と給付のバランスも悪化してきた。保険料に関しては、増加した額に応じて将来受け取れる額も増えるという説明がなされるが、正直なところ「朝三暮四」の寓話を思い起こしてしまう。今の生活が厳しい現役世代の中には、老後により長く働くことになるとしても、今は保険料を増やさないでほしいという人も多いだろう。
それでは、どうしてこのような状況に陥っているのか。その根底には、いうまでもなく、少子化と長寿化の進展に伴い逆ピラミッド化しつつある日本の人口構成の問題が存在する。この現象が今後も改善する見込みがない中、公的年金制度をしっかり理解していても、同制度に不信感を抱いてしまうという人がいるのも決して不思議ではない。なお、もし少子化が進まず、きれいなピラミッド型の人口構成が維持されていたら、現在のような公的年金を巡る問題は生じていないと思われる。
以上を踏まえると、現状、①公的年金制度に対する誤解により不信感を抱いている人、②公的年金制度に対して特段の誤解はないが不信感を抱いている人、という2種類の人が存在すると整理できる。そして、後者に対しては、誤解に関する話を持ち出しても、「そんなことはすでに知っている」などと反感を買うだけでむしろ逆効果になる可能性がある。そうではなく、決して完璧ではない公的年金制度が抱えている課題を認めた上で、今のところ他に代替できる制度がないという現実や公的年金制度の本質的な意義と役割を繰り返し訴えていくことが、彼らの不信感を少しでも和らげるために大切だと思う。
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金融調査部
主任研究員 長内 智