FIREムーブメントの裏で増える「FI会社員」

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2024年11月13日

個人の資産形成の動きが広がる中、近年、日本でも「FIRE」という言葉が市民権を得つつある。FIRE(ファイア)とは、英語の“Financial Independence, Retire Early”の頭文字を並べたもので、「経済的な自立と早期リタイア」を意味する。ここで、経済的な自立とは、労働所得がなくても資産所得等で生活できる状況をいう。

一口にFIREといっても複数のタイプが存在する。最も代表的なのは、FIRE後に一切働かず、かつ節約することなく豊かに暮らす「Fat FIRE」であろう。さらに、節約を伴うのか、少し働く必要があるかなどにより、「Lean FIRE」、「Coast FIRE」、「Barista FIRE」(≒Side FIRE)に分類される。

日本においても、FIREを実現した人が増えており、新たにFIREを目指す人も着実に増えているように思われる。こうしたFIREムーブメントの裏で、筆者が注目しているのが「FI会社員」と呼べるような人たちの存在だ。

そもそも「FIRE」とは、文字通り、FI(経済的な自立)とRE(早期リタイア)の2つからなり、資産形成によって直接的に実現するのは前者である。後者は、あくまでも本人の意向次第であり、FIを実現した後に働き続けるという選択肢も存在する。

そして、FIを実現しても早期リタイアせず働き続ける会社員のことを、今回「FI会社員」という造語で示してみたのである。当然、会社員以外でもFIを実現している人は存在し、例えば、「FI公務員」や「FIドクター(医者)」、「FIフリーランス」、「FI個人事業主」などが考えられる。

なお、英語だと“Keep Working”のようなフレーズになると思われるが、その場合は「FIKW」と語呂が悪い。“Remain Employed”とすれば少し強引ながら「FIRED」と表すことができ、何とか使える形かもしれない。ただ、トランプ次期米大統領の“YOU ARE FIRED”という決まり文句が思い浮かんでしまう。

こうした語呂合わせの議論はともかく、今後も個人の資産形成が進展して資産所得が増加する中で、「FI会社員」は少しずつ増えていくと見込まれる。FIを実現した後に働き続ける理由は人それぞれ異なり、時機をみて「FI会社員」から「FIRE」に転じるケースもあるだろう。

それでは「FI会社員」とは、一体どのような人たちなのか?おそらく、他の人たちより早くリスクを取って資産形成を進めてきた現在の「FI会社員」には、周囲に流されない、前例に捉われない、時には大胆に行動する、保身に走らない、先を見据えてやるべき事をたんたんと進める、市場の変化を冷静に見ることができる、などの特徴があるように思う。また、いわゆる伝統的な日本企業(JTC:Japanese Traditional Company)の文化とはやや一線を画すタイプのような印象もある。

ただし、「FI会社員」の実像は、今後各種アンケート調査等が行われるまで、なかなか掴めないだろう。なぜなら、彼らは、表面上、ごく普通の会社員として働いているためだ。いずれにせよ、そう遠くない将来、「FIRE」とともに今回取り上げた「FI会社員」の存在が脚光を浴びる日がくるかもしれない。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智