金融経済教育で重要な「心・技・知」と投資初心者の注意点とは?
2023年02月01日
岸田政権の掲げる「新しい資本主義」の重要な柱となる「資産所得倍増プラン」が2022年11月28日に取りまとめられ、その中に「金融経済教育の充実」が明記された。今年は、官民が一体となって金融経済教育への取り組みを強化する見込みであり、まさに「金融経済教育元年」と呼べる年になると期待される。
筆者は、仕事上、これまで金融経済教育に広く関わるテーマの連載を執筆する機会があり(※1)、期せずして、官民挙げての取り組みに先行する活動を行ってきた。また、個人的なことではあるが、就職の超氷河期世代にあたる筆者は、将来への漠然とした不安からコツコツと長期投資を続けており、金融経済教育の先の「貯蓄から投資へ」を実践してきたという経験もある。
これまでの運用成績は山あり谷ありで、世の中のすご腕投資家や投資の達人と呼ばれる人たちには及ばない。ただし、過去の金融・経済ショックを乗り越えて、試行錯誤しながら地道に投資を続けてきた結果、配当を中心とする年間の資産所得額は、「ねんきん定期便」から予想される年金受給額を上回る。投資を始めた頃は、年金の足しになる副収入を少しでも得られればよいと考えていたが、それはすでに達成しており、将来不安もだいぶ緩和した。
このような自らの経験を踏まえると、今後の金融経済教育では、「心・技・知」という3つの要素が重要になると考えている。金融と経済の知識は「知」、ドル・コスト平均法やファンダメンタルズ分析、テクニカル分析などのノウハウは「技」に相当する。そして、「心」は投資を行う際の投資家心理(メンタル)だ。これら3つの要素のうち、現在の金融経済教育の議論では、「心」の側面が不十分のように感じる。
例えば、金融経済教育に関して、投資のリスクをしっかり教えること(「知」)が大切という意見をよく聞く。しかし、すでに様々な教材や資料が存在することもあり、投資初心者にリスクについて説明し、それを頭にインプットしてもらうこと自体はさほど難しくない。その一方、リスクが顕在化して想定外の損失が出た場合の心理的な不安や苦悩(「心」)は、身をもって経験しないと、なかなか理解しにくい。実際、投資の損失による心理的な負担に耐え切れず投資を止めてしまう人もいる。
こうした投資家心理の問題は、心理学の視点などを経済学に取り入れた「行動経済学」の分野でも議論されている。例えば、投資家は利益より損失の方に影響を受けやすく、損切りや利益確定の判断にも良くない影響を及ぼすといった問題などが指摘されており、すでに投資を行っている人にとっては共感できる点も多いと思われる。ただ筆者の過去の教訓を踏まえると、こうした内容は多少なりとも投資を始める前に知っておいた方がよいと考える。最近は、投資家心理について取り上げている書籍やインターネット上の情報が増えており、投資初心者には、それらをあらかじめ確認しておくことを勧めたい。
今後、官民で充実した金融経済教育体制を構築できたと思っても、肝心の投資家心理の視点が不十分であれば、「仏造って魂入れず」となりかねない。その結果、次の金融・経済ショック発生時に、想定外の損失に直面して精神的に大きなダメージを受ける投資家が大量発生し、国全体としての資産所得倍増が道半ばで終わる可能性もある。少し行き過ぎた懸念かもしれないが、これまで長期投資や金融経済教育を実践し、過去の金融・経済ショックにも直面した経験に基づく、一つの意見として参考になればと思う。
(※1)『KINZAI Financial Plan』(一般社団法人金融財政事情研究会)の2019年4月号から「マーケットを読む!金融経済ニュースの着眼点」の連載、『税務弘報』(中央経済社)の2023年1月号から「深読み証券投資の羅針盤」の連載を担当している。後者では、初回に特別インタビュー「税理士が知っておきたい資産運用~正しい知識で将来を見据えた対策を」も掲載されている。
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