ESG関連のイニシアティブへの期待
2024年11月25日
近年、サステナブルファイナンスが世界的に広がるとともに、関連する様々な投資家や金融機関が参加する団体(イニシアティブ)が新設されてきた。例えば、気候変動に関してはNet-Zero Asset Owners Alliance (NZAOA) やClimate Action 100+、生物多様性に関してはNature Action 100やSpring、人権に関してはAdvanceといった団体がある。これらの団体は、参加機関がとるべき行動をガイドラインとしてまとめたり、投資ポートフォリオ等の目標を提唱したり、投資先企業等に対するエンゲージメント(対話)の在り方を示すなど、様々な活動を行っている。
米国では数年前から共和党がこうしたイニシアティブに参加する資産運用会社や保険会社に対して、受託者責任違反(※1)、反トラスト法違反であるという批判を強めている。前者は資産運用会社に対して経済的リターンのみ考慮すべきである(環境や社会に対する考慮はすべきではない)という批判であり、後者は複数の資産運用会社や保険会社が結託して気候変動対応をしていない企業等と取引しないことを問題視するものである。実際に受託者責任違反や反トラスト法違反に該当するか否かは、共和党と民主党で見解が全く異なり結論は出ていない。しかし、こうした批判を受け、Climate Action 100+やNet-Zero Insurance Alliance(NZIA:温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す保険会社を会員とする組織)から離脱を選択する機関もあり、NZIAは活動停止に至った。
イニシアティブ側もこうした批判に対応している。例えば、責任投資原則(PRI)が設置したSpringは、政策的エンゲージメント(政策当局に対する対話・働きかけを行うこと)に重きを置くことを打ち出している。国連環境計画(UNEP)がNZIAの後継組織として設置したForum for Insurance Transition to Net Zero (FIT)は、NZIA同様に保険会社を会員とする組織だが、規制当局や監督機関、科学・学術コミュニティや市民団体が参加する諮問グループから意見を求める体制を採用しており、リーガルチームも備える。
近年、様々な論点で世界的な合意形成が難しくなっている。2024年10月~11月に開催された生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)では、結論が出ず時間切れになる(中断)という異例の事態も起きた(※2)。共和党のドナルド・トランプ氏が大統領に就任する2025年以降、各種イニシアティブに対する逆風はさらに強まるのかもしれない。しかし、そんな時代にこそ、国を跨いで議論するイニシアティブの存在は重要性を増す。イニシアティブの中で世界各国から集まった参加者が問題意識を共有し、協力できることを見つけていくことが、より良い未来への足掛かりとなるのではないか。
(※1)受託者責任とは、年金基金や機関投資家など資金の出し手(最終投資家)から資産の管理・運用を任された機関投資家が、最終投資家の利益を最優先に考え、資産の管理・運用を行う責任である。
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金融調査部
主任研究員 太田 珠美