トランプ新大統領と証券規制のゆくえ

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2024年11月22日

2024年11月5日の米国大統領選挙では、共和党候補者のトランプ前大統領が約7,680万票(※1)を獲得し、当選した。一方、民主党候補者のハリス副大統領も約7,420万票を獲得し、両者の得票率の差は約1.6%ptで、前回2020年の選挙と同様に米国の政治的分断が明確に表れた選挙であった。

こうした政治的分断は、新政権下において、証券監督当局である米国証券取引委員会(SEC)の規則制定や執行活動にも大きな影響を及ぼすことが予想される。SEC委員は、大統領より任命され任期は5年で、委員会の超党派性を維持できるよう、同一の政党に属する委員は3人までとされている。現在の委員は、バイデン大統領に指名され上院で承認されたゲンスラー委員長と民主党系委員2名、共和党系委員2名の構成だ。

ゲンスラー委員長就任以降、SECの規則制定の多くは民主党系3、共和党系2の票差で可決された。反対した共和党系委員から規則に対する痛烈な批判がされてきた。しかし、こうした党派対立は、トランプ前政権時代のクレイトン前委員長時代にも見られたものであり、トランプ新政権下での新委員長の下でも同様であろう。

ゲンスラー委員長の任期は2026年までだが、これまでの例をみると、自らを指名した大統領が変われば、委員長自ら辞任しており、同委員長の辞任も時間の問題だ(※2)。

ゲンスラー氏は、気候変動開示規則など物議を醸す規則の制定を主導してきた。気候変動開示規則は、共和党議員などから厳しい批判を浴び、制定後には裁判所で執行停止となるなど、思い通りにならない場面も多かったのではないだろうか。

トランプ新政権や共和党のスタンスは、「規制緩和」だと予想されており、多くのSEC規制が、トランプ大統領が指名する新SEC委員長の下で変更される可能性は高い。

しかし、例えば、クレイトン前委員長の下で制定されたRegulation Best Interest(Reg BI)は、証券会社が個人顧客に証券取引等を推奨する際に、顧客の最善の利益のために行動することを義務付けた規則であり、むしろ規制を強化するものもあった。トランプ新政権下で制定される規制を一律に緩和する内容だと見るのではなく、個々の規制の何がどう変わるのか、正確に、冷静に分析することが求められる4年間となるだろう。

いずれにせよ、SECの制定する規制については、2025年以降大きく変更されることになるだろう。我が国の金融・資本市場規制のあり方を考えるにあたり、参考にもなるSEC規制の議論については、引き続き目が離せない。

(※1)NBCニュースウェブサイト(2024年11月20日時点)
(※2)本稿執筆後の2024年11月21日、SECは、トランプ大統領が就任する1月20日付で、ゲンスラー委員長が退任することを発表した。

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執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 鳥毛 拓馬