場中開示にあたって上場会社が考えるべきこと
2024年11月11日
東京証券取引所(東証)の株式現物市場の取引時間が11月5日から30分延長され、9時~15時30分(11時30分~12時30分は昼休み)になった。2020年10月に起きたシステム障害によって、終日売買停止に陥ったことで検討が始まった。取引時間の延長で、障害発生当日に復旧して取引機会を確保するという市場のレジリエンス(復元力)を高めることに加え、市場利用者の利便性の向上や取引時間の長い諸外国へのキャッチアップの意味合いもあるという。
取引時間の延長で注目されているのが、取引時間中の決算情報の開示である場中開示の増加である。トヨタ自動車など一部の会社は場中開示を行ってきたが、これまで多くの会社では取引時間終了後に開示することが多く、いわば慣行になっていた。令和4年6月13日公表の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告においては、「資本市場が価格発見機能を適切に発揮する上で、企業に関する情報がタイムリーに公表され、市場取引の中で評価されることが重要である」(30頁)という基本的な考え方が示され、「決算情報を含む重要情報の公表タイミングについては、社内手続きなどを了したタイミングで速やかに開示することが基本であり、このような開示を促す取組み(原注83は省略)を進めるべきである」(同)と提言されている。速やかな情報開示は情報漏洩リスクを低減でき、昨今頻発するインサイダー取引の防止にもつながる。
上場会社が場中開示で十分に検討すべきことは開示のタイミング、情報の出し方、公表内容である。ともすると、会社が開示した売上高や利益の水準と市場予想(コンセンサス)の比較のみで投資判断がなされることも考えられる。プログラムに従って高速で高頻度な取引を行うHFT(High Frequency Trading)を中心とした主体による取引によって株価の変動が大きくなる可能性がある。
一過性の費用が生じたり、成長投資のために費用を積み増したりしたなど、業績の変動要因の説明がなければ、投資家が会社の本来の企業価値を判断することは難しい。決算短信内容の充実、短信と決算説明資料の同時開示、業績の変動要因・今後の会社の成長戦略などを短信公表から間髪を入れずに経営者が説明するなど、投資家と丁寧なコミュニケーションを行うことが求められる。
こうした丁寧なコミュニケーションは新たに求められたものではなく、2023年3月に東証から要請された「資本コストや株価を意識した経営」の中でも頻繁に言われてきた。場中開示の在り方においても、上場会社の株価への意識が試される。
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主任研究員 神尾 篤史