日本でイノベーション創出に期待は持てるのか?
2024年10月21日
今年のノーベル賞は、物理学賞に化学賞と相次いでAIに関連する研究者が受賞した。時代の流れを感じると同時に、AIのようなイノベーティブ分野での日本の存在感、そして日本でのイノベーション創出について改めて考えさせられた。
日本経済の持続的成長の鍵として、イノベーションへの期待が語られることが多い。政府の脱炭素に向けたロードマップなども、一定のイノベーションを前提としているように見受けられる。しかし、イノベーション創出に何か決まった方法があるわけではなく、それを前提とすることは極めて不確実かつ曖昧な未来と言える。
そもそも、日本はイノベーションの創出が不得意との一般的なイメージがあろう。もちろん先頭を走っている技術分野や産業分野があるのは間違いないが、例えば、いわゆるGAFAM(Google、Apple、Facebook(現在のMeta)、Amazon、Microsoft)に代表されるITサービス分野での存在感などは極めて低いのが現状だ。
どうしてイノベーション創出が不得意なのか。例えば、滅私奉公を美徳とするような考え方から「出る杭は打たれる」空気が相変わらず存在していることがあるかもしれない。それゆえチャレンジによる失敗を恐れる傾向も強いと見受けられる。また、戦後、大企業が自前主義で組織を大きくしてきた経験も邪魔になっているような気もする。
イノベーション創出は、どちらかと言えばスタートアップを含めたベンチャー企業が担い手として期待されているが、それを取り巻く大企業や行政の動きも重要であり、それら伝統的組織の意思決定スピードの遅さが大きな課題となっている。成熟して多くの従業員を抱えた大企業や、行政が急に変わることを期待するのは無理筋なのだろうか。だとすると、これからもイノベーション創出への環境醸成は容易ではないかもしれない。
しかし、その変化につながる期待がないわけではない。例えば、「人材(ヒト)の流動化」と「資本(カネ)の流動化」が挙げられるだろう。人材の流動化については、従業員のみならず経営者層においても転職が一般化しつつあり、組織の活性化や意思決定のスピードアップに好影響を与えると期待される。一方、資本の流動化と言ったのは、企業間の株式持ち合いの解消や、M&Aの活発化などにより、資本(株主)の入れ替わりが起きやすくなってきたという意味だ。かつて安定株主のもとで保守的に行われていた経営に変化が起こりやすい状況となり、意思決定も迅速に行う必要に迫られている。
最後に、「モノの流動化」として、最近言われるようになってきた無形資産の活用を挙げておきたい。これまで企業は社内に膨大な知的財産を蓄積してきたものの、必ずしも十分に活用されてこなかったと考えられる。それを認知して、売却やスピンオフなどを含めた活用の積極化を図ることが、イノベーションを生む一つの種になるかもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
調査本部
常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰