初めてのインド訪問は驚きの連続
2024年10月18日
2024年9月に1週間、出張で初めてインドを訪れた。デリー、バンガロール、ムンバイの3都市である。デリーとムンバイはインドを代表する大都市、バンガロールはインドでも有数のIT都市である。日本とインド間のフライトは8~9時間、行きも帰りも多くの日本人ビジネスマンが搭乗していた。現地の運転手は、日本からビジネス目的の訪印者が毎日のようにやってくると言っていた。インドは今や、日本企業にとって注目の場所なのである。
インドを訪れて感じたことは、同じアジア新興国とはいえ、自分がこれまで訪れた東南アジアとは全く異なる社会であるということだった。いくつかの事例をここでは取り上げたい。
まず驚いたのは、中国の存在を感じなかった点である。中国語を耳にする機会や中国語の看板を見かける機会はほぼなかった。さらに、一帯一路政策の下、中国企業が中国人労働者を現地に送り込み、インフラ整備に取り組む光景が多く見られる東南アジアに対し、インドでそのような光景を目にすることはなかった。中国を警戒するインドは、外資規制や輸入規制を厳格にすることで、中国からの投資や製品の流入を阻止しているためである。その姿勢は徹底している。
2つめは、インドの自動車事情である。インドにおける自動車の普及率は、人口1000人当たり33台(2020年、国際自動車工業連合会)と低い。その代わりに多く普及しているのが、二輪車や、市民の足として重宝されている「リキシャ」と呼ばれる三輪車である。三輪車の大半は天然ガス(CNG)車で、それを表すCNGというマークが貼られたものを多く見かけた。デリー首都圏では、大気汚染対策としてディーゼル車の規制が2023年から始まり、2027年にはディーゼル三輪車の走行が禁止されることとなっている。これを機に、CNG車が普及し始めているのだろう。政府は電気自動車(EV)の普及に力を入れていると聞いていたが、コストと燃料補給のしやすさを考えると、CNG車の方が使い勝手が良いのだろう。
また、自動車事情で意外であったのは、インド大都市における交通渋滞の深刻さである。目にしたのは車線を気にせず、まるでパズルの如く車の鼻を空間に埋め込んでいくように進む多数の自動車である。自動車の数が多いというよりは、自動車の円滑な走行を可能とするインフラが整っていない印象である。信号はほぼない上、あっても無視する車が多い。モディ政権はインフラ支出のうち、道路と鉄道にその多くを割り当てているが、首都のデリーでさえ、インフラ整備がまだ追いついていないことを実感するエピソードだった。
最後は、2016年の高額紙幣廃止をきっかけに進んだといわれている、インドのキャッシュレス化である。零細商店(いわゆるキラナショップと呼ばれるもの)や、前述のリキシャにも決済のためのQRコードがぶら下がっている光景が見られたほか、渋滞で止まった車の窓を叩き、お金を集めている人の中には携帯電話を持ってデジタル決済を求めている者もいた。思いのほかデジタル決済が普及していることに驚いた。
都市と地方では見える世界が異なるだろうし、インドの大都市も時間とともに大きな変化を遂げるだろう。百聞は一見に如かずとはこういうことなのだと実感し、また訪れたい国の一つとなった。
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経済調査部
シニアエコノミスト 増川 智咲
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