GENIUS法、銀行とステーブルコインの邂逅

ステーブルコインは支払決済手段として普及するのか?

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  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

サマリー

◆2025年7月18日、第二次トランプ政権は、ステーブルコインの包括的な法的枠組みにあたる「GENIUS法」に署名した。

◆ステーブルコインの包括的な法的枠組みの整備については、既に日本や欧州連合が施行済みであり、米国は後れを取っているといえる。それでもなお、ステーブルコインの普及という観点からは、GENIUS法の制定こそがマイルストーンとなろう。というのも、ステーブルコインの時価総額のうち、99%以上が、米ドル連動型で占められているためである。

◆GENIUS法にあって、見逃せない特徴が、構造的な銀行グループ優遇である。発行体となるにあたって米国通貨監督庁(OCC)の管轄下に入る必要がある点や、銀行秘密法に定められたマネー・ローンダリング対策(AML)が求められる点を見るに、銀行グループにとっての新たな規制対応コストは非金融機関に比して著しく小さい。こうした銀行グループ優遇の背景には、大規模な減税を控え、増発が想定される米国国債の流動性懸念があるものと考える。銀行グループにとっては、自らステーブルコインを発行することで、最大で6.6兆ドルに及びうるとされる預金流出を防止することができるというメリットがある。

◆GENIUS法の制定により、ステーブルコインが支払決済手段として普及するか否かについては、日用消費財を扱う大手小売業者がステーブルコインでの決済を奨励するか否かにかかるだろう。小売業者にとっては、ステーブルコインでの決済に移行することで、クレジットカード決済により発生する手数料を支払わずに済むというメリットがある。

◆GENIUS法の制定を受けて、大手銀行グループや大手小売業者がステーブルコインを発行するか否かが、適用開始が見込まれる2026年まで、大きな注目点となるだろう。

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