インド総選挙が意味することと、モディ首相の課題

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2024年07月19日

2024年6月4日、約1カ月にわたる投票を経て、インド総選挙の開票が行われた。結果は、与党であるインド人民党(BJP)が過半数を割るという予想に反するものであった。インドの選挙結果は蓋を開けるまで分からない、とはよくいわれることであるが、今回は改めてそれを確認することとなったのである。

下表は、政党・連合ごとの得票率を投票者の所得別に表したものである。これには、3つの発見がある。まず、貧困層を除くと、最大野党である国民会議派の得票率がそれほど大きく伸びていない点である。それに対し、2023年7月に結成されたインド国家開発包括同盟(I.N.D.I.A)という37党の野党で構成される大連合の得票率は大きく伸びた。つまり今回の選挙では、野党が大連合を形成することで票割れを阻止できた効果が大きかったといえる。

2点目は、BJPの得票率の低下があまり目立たなかった点である。貧困層に至っては、得票率が前回よりも1%pt上昇した。インドでは、小選挙区制が採用されていることから、獲得議席率と得票率の差が開きやすい。BJPは、今回の選挙で議席数を大きく減らしたが、その支持者が大きく減少したわけではないということだろう。

3点目は、前記のようにBJPの得票率が貧困層では上昇したことである。逆に、中間層や富裕層では低下幅が大きかった。今回の選挙では、貧困や雇用不足、物価高がBJP票の減少につながったといわれていた。しかし、この表を見ると、経済に不満を感じているのは必ずしも所得の低い層というわけではなさそうだ。BJPによる手厚い福祉政策によって長年守られてきた貧困・低所得者層よりもむしろ、その対象から外れる中間層や富裕層で不満を抱える人達が増えたとも考えられる。

今後注目すべきは、シン政権以来の連立政権に戻った今、ワンマン経営者気質のモディ首相が、与党連合(国民民主連合、NDA)内で調整力を働かせることが可能かという点である。NDAの議席数は293議席と、過半数を21議席上回るにすぎない。仮にNDAを構成する主要政党テルグ・デサム党(16議席)とジャナタ・ダル統一派(17議席)が連立から離脱すれば、NDAの議席数は過半数を割ることとなる。これら2つの地場政党は、それぞれが地盤とする州の要望に応える必要があり、モディ首相の政策と距離ができる可能性があるためである。モディ首相は今後、両党の要望を聞いて調整を図りながら、国内外で期待されているような成長政策を講じるといった新領域に入ることとなる。まずはその第1歩として、2024年7月23日に発表される今年度の本予算の内容に注目したい。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲