米大統領候補者討論会の注目点は?
2024年06月26日
日本時間6月28日に米大統領候補者第1回討論会が開催される。共和党からはトランプ氏、民主党からはバイデン氏が参加する。通例では、夏場の共和党・民主党大会で各党の大統領候補者が正式に決定した後に討論会が開催されるが、6月の開催は異例といえる。今回の討論会は1時間半を予定し、観客は入れず、司会と候補者だけで進める。2020年の米大統領候補者討論会で、バイデン氏とトランプ氏が互いの発言を遮って議論の進行に支障が生じたことを踏まえ、一方の候補者が発言している最中には、もう一方のマイクの音を切る措置が取られる予定だ。有権者にとって、2020年に比べて聞き取りやすい討論会になることだろう。
では、今回の討論会ではどのような議論がなされるのだろうか。バイデン氏は、5月末のニューヨーク州最高裁判所によるトランプ氏への有罪判決を受けた批判キャンペーンを推し進めている。6/7-9に実施されたPOLITICOの世論調査(※1)によれば、無党派層の21%、共和党支持者の7%は、トランプ氏の有罪判決を契機に、トランプ氏の支持に消極的になったと回答している。今回の討論会でも、バイデン氏はトランプ氏の有罪判決を材料に攻勢に出たいところだろう。これに対し、トランプ氏は、不正な裁判と反論すると考えられる。あるいは、トランプ氏は、バイデン氏の次男であるハンター・バイデン氏が銃の不法購入によって有罪判決を受けたことを批判するかもしれない。
こうした有罪判決をめぐる舌戦は討論会の見どころの一つになると考えられる。しかし、罵り合いに終始してしまえば、双方にとって有利には働かない。共和党、民主党の支持者の間の溝が深く、翻意が困難であると考えれば、大統領選挙での勝利の鍵は無党派層の取り込みといえる。無党派層は、両党支持者の間で意見対立が激しい妊娠中絶や銃規制、移民といったテーマに対する関心は少なく、ましてやトランプ氏とバイデン氏の罵り合いに興味はない。The EconomistとYouGovの共同世論調査(6/9-11実施)によると、無党派層が望んでいるのは、経済政策、とりわけ、高インフレへの対処策だ。(※2)
物価動向に関して、足元でインフレ率に減速傾向が見られるのは、バイデン氏にとっては朗報といえる。他方で、不法移民の急増に対する有権者の不満が高まる中、バイデン氏は不法移民に対する抑制策を6月から強化した。不法移民を含め、海外から米国への人口流入は、これまで労働需給の緩和に貢献してきたが、今回の不法移民抑制策によって、労働需給が緩和しにくくなり、インフレ圧力が強いままとなる恐れがある。
トランプ氏にとっても、インフレは重要なテーマとなる。トランプ氏がこれまでに主張してきた中国からの全輸入に対する税率60%の追加関税措置や、世界各国・地域からの輸入に対する一律10%の追加関税措置などは、グローバルなサプライチェーンを再度混乱させかねない。足元で、財価格はインフレ率の押し下げ要因となっているが、大規模な追加関税措置が実施されれば、サプライチェーンの混乱のもと、一転して押し上げ要因にもなり得る。
トランプ氏、バイデン氏ともに現時点で具体的なインフレ抑制策を示してはいない。夏場の共和党・民主党大会で、経済政策も含むマニフェストが採択されることになるが、今回の討論会は両氏の素案をうかがい知る機会といえる。有権者はもちろんこと、外から大統領選挙の行方を考える上でも、政策の具体的な中身に加えて、トランプ氏とバイデン氏のどちらが冷静に議論を主導できるかが最大の注目点といえよう。
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経済調査部
主任研究員 矢作 大祐