J-FLEC設立は金融機関の投資アドバイスにどのような影響をもたらすか

RSS

2024年06月12日

4月に金融経済教育推進機構(J-FLEC)が設立された。J-FLECは官民一体で金融経済教育を提供する組織であり、8月から本格稼働する予定である。J-FLECの活動を通じて国民の資産形成に向けた取組がさらに進むことが期待される。

J-FLECは金融経済教育に関して様々な事業を行う。全国の企業や学校等に、J-FLECが認定したアドバイザーを講師として派遣して金融経済に関する出張授業を行ったり、社会人や企業経営者、教員などを対象にお金に関するイベント・セミナーを開催したりする。また、ライフプランの立て方や資産運用、NISA(少額投資非課税制度)・iDeCo(個人型確定拠出年金)、リタイアメントプラン等について認定アドバイザーに無料で個別相談を受けることができるサービスを提供する。さらに、認定アドバイザーがJ-FLEC外で有料で相談を行う場合があるが、その利用を促すために初めて利用する人に相談料の割引クーポンも配布する。

J-FLECはこれらの事業を通じて、個人にライフプラン・家計管理・資産形成などの重要性や自分自身がとるべき具体的な行動を知ってもらい、例えば資産形成に一歩踏み出すなど、実際に行動に移してもらうことを目指している。

J-FLECが提供する教育はライフプランや資産運用のほか、社会保険と民間保険、金融トラブルの防止など幅広い分野にわたるが、今年から新NISAが始まったことや今年に入ってからの株価上昇などを受け、資産形成に関する教育への期待が高まっている。実際に資産形成に踏み出すに当たっては、個別の株式や投資信託などに関する情報が必要になるが、J-FLECで認定アドバイザーが行う個別相談では、個別の金融商品への投資判断について相談することは認められない。個別の金融商品への投資判断に関する相談を行うことができるのは法令上金融機関の職員に限られているが、認定アドバイザーは、中立的なアドバイスを行うという観点から金融機関の職員は除外されているためである。

このように、個別の金融商品に関する相談は引き続き金融機関の職員が担うため、J-FLECの本格稼働後も金融機関の職員の役割は重要である。ただ、今後は、J-FLECで個別相談を体験し、基本的な知識を身に付けた顧客が金融機関の職員に相談を行う場面が増えるだろう。例えば、ライフプランを立てた顧客が、中長期的な資産形成にふさわしい金融商品の提案を求めるといったケースが考えられる。金融機関の職員はそのような顧客も満足させることができるよう、金融商品やNISAについて一般的な説明するだけでなく、顧客のライフプランやマネープランを踏まえ、その顧客のニーズに合った金融商品を提案するという形で、アドバイスに関する能力をさらに向上させることが求められるだろう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希