地方都市に山手線を重ねてみた

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2024年05月29日

多くの地方都市でモータリゼーションに伴う街の拡散が問題視されてきた。広大な駐車場を持つ郊外大型店が増える一方、中心商店街はさびれ駅前がゴーストタウン然としている。上下水道や道路などインフラ稼働密度がただでさえ低い中、人口減に転じてからは空き家が増えて網の目がますます粗くなる。多かれ少なかれどの地方都市も抱える問題だ。

ということで以前から取り組まれているのが「コンパクトなまちづくり」である。目に見える効果があったのか現時点での評価は難しいが、この際コンパクトシティについてあらためて考えてみる。これを公共交通機関または徒歩でもっぱら移動する高密度都市と捉えた場合、その代表は東京だ。その中心部といえば山手線の内側となる。池袋、新宿、渋谷など郊外電車の発着駅があることからも、山手線が郊外とそれ以外との境界線であることに異論はなかろう。

思い立って地方都市の地図に同縮尺の山手線を重ねてみた。図は上段が左から山形市、秋田市、松山市、下段は富山市、宇都宮市そして仙台市である。すると、どの都市も郊外を含めて山手線の内側に収まることがわかる。

まず山形は高速道と国道13号からなる環状ルートと山手線が重なる。中心街を南北にはさむ郊外のイオン山形北SC、イオンモール山形南も地図に重ねた山手線の内側にある。秋田は、秋田駅前が東京の大手町とすると郊外の御所野地区は品川駅の距離感覚だ。松山の中心街は銀天街・大街道の一帯だが、これは山手線を重ねると神田神保町にあたる。郊外大型店のエミフルMASAKIは高輪にあたる。松山でロードサイドといえば松山環状線だが、東京と比べれば外堀通り(環状2号線)程度の大きさだ。

次はコンパクトシティで有名な富山の街だ。路面電車の環状線を霞が関官庁街に重ねると、郊外一番店のファボーレは渋谷センター街にあたる。富山港線の北端にある岩瀬は田端駅に重なる。宇都宮の場合、山手線とほぼ同じ大きさの宇都宮環状道路(通称:みやかん)が中心街を囲む。山手線を重ねると、東郊の大型店のベルモールが秋葉原駅に、北関東自動車道の宇都宮上三川IC周辺の商業地、インターパーク宇都宮南は品川駅東側の再開発エリアに重なる。

100万都市の仙台でも試してみよう。地下鉄南北線の北のターミナルの泉中央駅が駒込駅、南のターミナルの長町南駅は品川駅のやや北、高輪ゲートウェイの近辺にある。この場合、仙台駅前はだいたい赤坂にあたる。

重ね地図を見ると、地方都市は山手線内ほど高密度ではないが、拡散したとはいえその大きさは山手線ほどで、地理的な意味では十分「コンパクト」だ。ならば街の範囲はそのままでも構わない。市街地を点と線に集約することでインフラの非効率性を解消の上、モータリゼーションの問題に関しては財政や環境負荷の小さい交通手段を検討するほうが現実的ではないか。電車や地下鉄は難しくとも、路面電車なら可能性はある。デジタル技術で到着時間が予測できるようになれば本数が少なくともバスが使える。山手線のサイズ感なら電動アシスト自転車での移動も可能だ。

山手線は無理でも、ディズニーリゾートラインのように円周が小さい環状線なら地方都市にも合う。街なかをすべて歩行者天国にして、新千歳空港のターミナルビル構内移動用の電動カート(ヘルプカー、現在は一時休止中)が走る側道を整備するのもよい。羽田空港で広大な構内を移動するのに使う「動く歩道」もある。荷捌きには工場や市場の中を走り回る「ターレー」が使える。

地方都市と山手線の重ね地図

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鈴木 文彦
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 鈴木 文彦