土地を持っているのは誰か
2024年03月18日
2月に日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新したことは、日本経済が大きく転換しつつあることを感じさせる。ただ、同じ資産価格でも地価はそこまで回復していない。例えば一般財団法人日本不動産研究所によると、全用途平均の全国市街地価格指数(2023年9月末)はピーク時(1991年9月末)のせいぜい4割程度である。
1980年代後半の資産バブルにおける地価形成の異常さは、株価とは比べ物にならない。当時は、土地の価格を評価する際のリスクプレミアムが極端に小さかった。だが、神話的な土地バブルが崩壊して以降、地価は土地の利用によって得られる収益を反映した普通の資産価格になった。
1994年度以降の計数が示されている国民経済計算(2022年度年次推計)によると、日本の土地の時価総額は2022暦年末で1,309兆円である(以降はすべて暦年ベース)。1994年末は1,966兆円だったから657兆円もの価値が失われた。もっともボトムは2013年末の1,134兆円で、そこからは緩やかな上昇傾向にある。
極めて巨額の資産価値を失ったにもかかわらず、騒乱が起きるほどの社会的混乱は生じなかった。1994年末の1,966兆円の保有者の内訳は、家計58.6%、法人企業28.7%、国・自治体8.9%だった(残余は非営利団体など)。家計部門(個人)の場合、同じ場所に住んでいるだけなら土地の値上がり・値下がりの影響はあまり大きくない。
これに対し、保有財産の状況を把握し、利害関係者に示す必要がある企業の場合、収益が多少あがっても資産価値の激しい下落によって時価でみた資本が毀損されたため、負債圧縮や投資抑制に腐心せざるを得なかった。企業はバブル期に家計から土地を高値で購入したこともある。1994年から2013年にかけて、民間非金融法人企業では保有土地のキャピタルロスが累計270兆円に達した。2014年以降はロスの発生が止まっている。
取引面を見ると、日本全体の土地の時価総額が再び増え始めた2014年以降、土地の主たる保有主体である家計が継続的な売り手になっている(2022年までに29兆円の売り越し)。そしてバブル期と同様に、売り越すほどの土地を持っている個人は少数だろう。国税庁によると、課税されるケースが死亡の1割に満たない相続税で、土地が課税価格に占める割合は、下がったとはいえ直近でも約4割に及ぶ(バブル期は約7割)。かつての地価高騰も恩恵を受けたのは一部の人々で、多くの個人には迷惑な話だっただろう。
2022年末時点で家計部門が保有する資産は、土地747兆円、現金・預金1,116兆円に対し、株式は201兆円にすぎない。同族会社株式等を除けば上場株はその6割程度とみられる。土地と預貯金を大量に保有しているのが本当の富裕層である。公平公正な負担のあり方と称して、株価の上昇や配当の増額を狙い撃ちで批判する一部の意見は、官民をあげて総合的に資産形成を支援しようということとも矛盾する、矮小化された議論と言わざるを得ない。
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