‘Community Bank’とは?

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2024年03月01日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

1月末から2月初頭にかけて、‘New York Community Bancorp’(NYCB)の株価急落が報じられたことは記憶に新しい。

その際、日本の報道ではNYCBを「地方銀行」としていた。

米国では、日本でいう「地方銀行」に相当する銀行のカテゴリーとしては‘Community Bank’と‘Regional Bank’の二つがある。

連邦準備制度理事会(FRB)は、それぞれのカテゴリーを総資産の規模に基づき定義している。この区分に応じて、資本規制の厳格さに差異が設けられている。

具体的には、‘Community Bank’は「総資産100億ドル未満」の銀行を、‘Regional Bank’は「総資産100億ドル以上1,000億ドル未満」の銀行を指すとしている。これらに該当しない、「総資産1,000億ドル以上」の銀行は、「大手銀行」、すなわち‘Large Bank’と位置付けられる。

連邦預金保険公社(FDIC)の統計(2023年9月末時点)によると、‘Community Bank’の数は全銀行の約96.6%を占めている。これに対し、‘Regional Bank’は約2.7%にとどまる。‘Large Bank’にいたっては、残る約0.7%しかない(※1)。

それでは、社名に‘Community’が付くNYCBは、‘Community Bank’なのだろうか?(※2)

FRBの定義からすると、答えは「否」である。NYCBの総資産は1,000億ドルを超えており、‘Large Bank’に該当する。

ここ数ヶ月にわたって、この「総資産1,000億ドル以上」という、‘Large Bank’に該当するか否かの閾値は、米国の銀行業界にとって大きな意味を持つようになっている。

それは、FRBが、2023年7月に、「国際的に活動する銀行に対する資本規制の国際合意」である「バーゼルⅢ」の最終化(※3)の国内実施に係る公開草案を公表したことに由来する。

この公開草案でFRBは、2023年3月の「地方銀行」の破綻騒ぎを受けて「バーゼルⅢ」準拠の資本規制の適用対象となる銀行の範囲を現行の「総資産7,000億ドル以上」から「総資産1,000億ドル以上」に拡大する旨提案している。

この提案によると、総資産が1,000億ドルを超えているというだけで、海外拠点がなくその株価急落が米国の金融システム全般に「飛び火」したとも言い難いNYCBは、最も厳格な資本規制である「バーゼルⅢ(最終化)」の適用対象となる。

このように適用範囲を拡大しようとする公開草案に対して、FRB理事のMichelle W. Bowman氏は、2024年1月のスピーチ、‘The Path Forward for Bank Capital Reform’にて、強く違和感を訴えている(※4)。

また、同氏は、2024年2月のスピーチ、‘Defining a Bank’にて、‘Community Bank’の特徴(シンプルな組織形態、伝統的な銀行業務・リレーションシップバンキング・地域密着型金融・小口融資重視の姿勢)は、資産規模によって左右されるものではない、とも述べている(※4)。

こうした内部からの問題提起もあることから、向こう数ヶ月、FRBが「‘Community Bank’とは?」という自問をし、公開草案の内容を見直す可能性があるのではないか、と考えている。

(※2)厳密にいうと、NYCBは銀行持株会社であり、預金取扱金融機関である‘Flagstar Bank, N.A.’の親会社である。

(※4)Michelle W. Bowman氏がNYCBに言及したわけではない点に留意されたい。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光