サマリー
◆パンデミック以降、米国企業は顕在化した従業員の経済的不安に向き合い、ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上により積極的に取り組むようになった。ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」(※1)のことである。
◆2025年1月、トランプ米大統領は連邦政府機関等に対して、「多様性、公平性、包摂性(DEI)」プログラムを廃止する大統領令に署名した。それ以降、職場のウェルビーイング実現の土台でもあるDEIの取り組みを縮小・廃止する動きが民間企業にも広がった。しかし、米国企業が、従業員の経済面を含むウェルビーイング向上を人的資本戦略の中核と位置づける傾向は継続している。
◆むしろ、米国経済の不確実性が高まっており、企業が提供するファイナンシャル・ウェルビーイング・プログラム(FWP)の重要性が増している。中でも、緊急資金ニーズへの対応を強化する米国企業が目立つ。それには、個々の状況に応じた最適な金融行動につなげるための、資産形成や収支管理、債務等の情報を統合管理する仕組みが必要であり、こうした環境を整備する企業の動きも活発化している。
◆日本企業においても、人的資本経営の広がりなどを背景に、ファイナンシャル・ウェルビーイングの重要性が一段と認識されつつある。経済・社会環境の変化に機敏に対応しながら、現在の緊急時に備えた貯蓄と将来に向けた資産形成の両立を後押しすることで、従業員の経済的不安の払拭を目指す米国企業の取り組みは、日本企業にとって参考になる点が多いだろう。
(※1)J-FLEC(金融経済教育推進機構)「Mission&Vision」
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