2024年02月28日
今年も就職活動の季節がやってくる。インターン生の質問を受け、自分のコンサルティング経験をふりかえるに、業界研究と自己分析において経営戦略の考え方が就活に役立つのではないかと考えた。
経営戦略の定番にSWOT分析がある。外部環境を機会(Opportunity)と脅威(Threat)に、内部環境を自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)に分類。この4分類を基に、弱みを自覚し脅威に備え、強みを活かして機会を捉える文脈で戦略を立てる。
就活にあてはめれば機会と脅威は業界分析にあたる。デジタル化やグローバル化などの環境変化で今後はどの業界が有望か。また、少子高齢化や人手不足、他社他業態の脅威に対し当の業界や志望企業がどのような課題を抱えているかを把握することである。
強みと弱みの整理は自己分析にあたる。経営戦略でいう「強み」とは自社の技術力や営業地盤、ブランドなど有形無形の経営資源を競争力の観点で捉えるものだ。これが就活なら自社ではなく自分の得意分野を棚卸しする。狭い意味では語学力、数学力、運動能力、絵や音楽のセンスのような天賦の才がある。親分肌、手先の器用さ、人たらしの才、正確迅速な事務能力なども得意分野のうちだ。就活において自己分析はキャラ設定でもある。ちなみに整理、整頓、身だしなみ、スケジュールを立てて守ることなどの基礎はどんな仕事でも通用する強みである。
業界と志望企業の課題を知り、その文脈で自分の特性をプレゼンするのが就活の経営戦略だ。孫子の兵法、「彼を知り己を知れば百戦危(殆)うからず」である。
就活の自己分析でよく聞く整理法として、やりたいこと、できること、求められていることの3分法がある。3つのうち経営戦略と重なるのは“求められていること”(機会)と“できること”(強み)だ。経営戦略の概念に“やりたいこと”はない。
ただし、経営戦略にはミッション(社会的使命)という最上位概念がある。強みを活かし、どのような社会課題を解決するのか、自社の存在意義を確認するのも経営戦略の1つである。就活用語でいえば「天職」に近い。神様から与えられた職業を「天職」(calling)というが、神様を社会に置き換えると「天職」は経営戦略でいうミッションとなる。“やりたいこと”ではなく、“求められていること”を内面化したものだ。
自己分析3分法のうち、何度かの受験をはさむ学校時代で優先してきたのが“やりたいこと”ではなかったか。経営戦略で考えればこのドクトリンはリスクが高い。やりたくないことはやらなくてよいという詭弁に陥ったり、「成らぬは人の為さぬなりけり」を真に受けるあまり、期待していた結果が得られなかったときに心を折ったりしてしまう。
就活を経営戦略的に進めるならば、ポイントは“やりたいこと”の代わりに「天職」を設定することだ。“求められていること”と“できること”が合致したところに天職がある。これは強みを活かして機会を捉え、もって社会的使命を果たす経営戦略と重なる。顧客や同僚に感謝され、得意分野が他の人の役に立っていることを実感するとき「この仕事をやっていてよかったな」と感じる。それは心からやりたい仕事を選んだからだ、という確信につながる。要するに、世間でいう“やりたいこと”は後付けの志望理由だったのだ。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主任研究員 鈴木 文彦
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