コロナ禍後の積み残しの課題

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2024年01月10日

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行して8カ月が経過した。新規感染者は今なお発生しており、一定の感染症対策は必要だが、経済社会活動におけるコロナ禍は2023年で収束したといえる。

振り返ると、コロナ禍は日本経済がそれ以前から抱えていた課題を浮き彫りにした。その1つが行政のデジタル化の遅れだ。政府内や政府・民間間の情報連携が不十分だったことから、政府はコロナ禍で困窮した家計や業績が悪化した企業を選別して迅速に給付(プッシュ型給付)することができなかった。

マイナンバーカードの普及率は70%台前半まで高まったものの、プッシュ型給付のインフラ整備は途上にある。現在も、豊かな資産を持つ年金受給世帯も含まれる「住民税非課税世帯」を困窮世帯の基準とすることが多く、実情を踏まえたきめ細やかな支援を迅速に行うことは難しい。

多様な働き方を実現する上でも重要なテレワークは、図らずもコロナ禍で急拡大した。もっとも、テレワーク実施率は20年4月頃をピークに低下傾向にあり、とりわけ中小企業でテレワークを取りやめる動きが広がっている。東京都が定期的に実施している調査によると、従業員300人以上の企業のテレワーク実施率は直近でも高水準を維持する一方、同30~299人の企業では低下の一途を辿っている(図表)。

内閣府が23年3月に実施した調査結果を見ると、地方圏のテレワーク実施率は23%で、東京23区の52%を大幅に下回る。人手不足が長期的に見込まれる中、多様な人材を受け入れられない企業はいずれ事業活動の継続が困難になるとみられる。それにもかかわらず、都市部の大企業との人材獲得競争で劣勢に立たされやすい地方企業や中小企業において、テレワークが下火になりつつあるのは気がかりだ。

コロナ禍以降に膨れあがった国の財政においても課題が残る。23年の骨太の方針では、「歳出構造を平時に戻していく」との考えが打ち出され、24年度の政府予算案では5兆円だった予備費を1兆円に圧縮した(能登半島地震を受けて増額する方針)。だが、コロナ関連の医療経費をはじめ、特別定額給付金など家計向けの各種給付金、地方創生臨時交付金、雇用調整助成金の特例措置、中小企業等向けの持続化給付金などの大部分は赤字国債で賄われたが、財源確保の議論は全く進んでいない。

11年3月に発生した東日本大震災では、同年7月に政府の復興の基本方針が策定された。財源確保については、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うことを基本とする」と明記され、歳出削減や復興増税、政府保有株の売却などが実施された。コロナ関連支出についてもこうした考え方を踏まえるべきだ。

2024年は元日に能登半島で大地震が起こるなど、波乱の幕開けとなった。震災を乗り越え、持続的・安定的に成長する経済基盤を構築するためにも、コロナ禍後の積み残しの課題に官民で引き続き取り組む必要がある。

東京都における企業規模別のテレワーク実施率

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司