自動運転バスの時代はもうそこまで来ている?

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2024年01月09日

2024年は都営バスが運行を開始してちょうど100年になる。1923年の関東大震災で壊滅的な被害に遭った路面電車に代わる応急処置的な交通手段として、海外から輸入したトラックに幌を付けた簡易なバスで1924年に営業運転を開始したそうだ。

今では身近な交通手段となった路線バスだが、最近は人手不足により廃止や減便が地方だけでなく都市でも深刻化している。さらには、2024年4月よりこれまで猶予されていた運輸業のドライバーにも時間外労働の上限規制が適用されるため、全国的にバス運転手の人手不足は一層深刻化する可能性がある。

そこで今注目されているのが、全国各地で実証実験が盛んに行われている自動運転バスだ。これは2023年4月の道路交通法改正により、運転手を必要としないレベル4の自動運転が公道で可能になったことを受けたものだ。2023年5月に福井県永平寺町でレベル4による自動運転バスの公道(※1)走行が行われた。これをはじめとして、現在は運転手が必要なレベル2での定期運行の実証実験(※2)が行われている東京都の羽田イノベーションシティや茨城県境町などでも、レベル4の公道走行に向けた準備が進められている。

自動運転は自動化の程度により0から5までの6つのレベルが存在する。特にレベル2とレベル3の間には大きな違いがあり、それは人が運転を監視する義務があるかどうかにある。レベル2までは手放し運転(ハンズオフ)などの自動化は可能でも、常に運転手が運行状況を監視しなければいけない(※3)。一方のレベル3以上になると運転手は監視義務がなくなり(アイズオフ)、基本的に運転はシステムに委ねられる。ただし、レベル3でも緊急時においてシステムから人に運転を代わる余地が残されているので、運転手が乗車する必要がある。

その点、レベル4は緊急時にもシステムが働いて安全に車を停止することなどが可能になるので、運転手がいなくても公道を走ることができる。そのため、人手不足対策として期待される自動運転バスは、このレベル4を目指した実証実験が続けられている。ただし、走行可能なエリアが限定的であるという制約があり、この制約がなくなる完全自動運転はレベル5となるが、その実現のハードルは相当高いとされている。

以前、弊社コラムでも紹介した宇都宮のLRTは、都市の渋滞緩和や街づくり・環境対策などを重視していた(※4)が、自動運転バスは人手不足対策として期待されている(※5)ことから、特に地方の新たな交通手段として今後注目されていくだろう。

ただし、レベル4の自動運転バスが日常的に運用されるにはまだ数年は掛かりそうな印象を受ける。現状のレベル4は極めて限定された条件のもとで行われていることや、ほとんどの実証実験で行われているレベル2の自動運転バスでは、停車中の車の回避や信号機・交差点のある場所での停止・発進などは手動による運転が行われている。レベル4の実現に向けては、バスに付けた各種センサーからのデータだけでなく、信号協調や路車協調と呼ばれる信号機や交差点に設置したセンサーからのデータとも連携した、より安全性を高めた高度な情報通信システムが今後は必要となるだろう。加えて、自動運転バスに対する地域住民などの理解も欠かせない(※6)。

このように自動運転バスにはまだ課題は多いものの、全国各地で実証実験が加速しておりデータも増えつつある。今後、自動運転バスが人口減少時代における地域交通の救世主となることを期待したい。

(※1)ただし、走行するのは自転車歩行者専用道路であり、本格的な車道における走行ではない。
(※2)期間限定で実証実験を行う地域はかなり増えているが、2023年12月25日現在、比較的長期にわたってほぼ定期運行の形で実証実験を行っているのは他に、北海道上士幌町、愛知県日進市、岐阜県岐阜市といった地域に限られる。
(※3)ちなみに、レベル1は縦方向(加減速)もしくは横方向(左右)のどちらか、レベル2はその両方が自動化されることを指している。そうした自動化が全くないのがレベル0だ。

(※5)日本で実証段階の自動運転バスは電気自動車であり、環境対策も重視されている。
(※6)私が乗車した茨城県境町の自動運転バスは最高速度が20km/hで、狭い道だと後続の車が何台も連なって渋滞を起こす場面があった。こうしたデメリットばかりが強調されれば、自動運転バスの実現は困難となるだろう。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄