宇都宮のLRTに乗車して感じたこと

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2023年10月06日

先日、私は栃木県宇都宮市にある、宇都宮ライトレール(2023年8月26日開業)に乗車してきた。路面電車停留所(電停)の起点は「宇都宮駅東口」、終点は「芳賀・高根沢工業団地」とする全長14.6kmの区間を走行するLRT(次世代型路面電車システム:Light Rail Transit)で、乗車時間は片道約50分である。路面電車の新設は75年ぶり(※1)ということもあり、宇都宮ライトレールは全国でも大きな話題となっている。

電車は「宇都宮駅東口」を出発すると、ほぼ直角に大きく左に曲がり、東の郊外エリアに向かって最高速度40km/hほどの速さで道路の真ん中を走行していく。途中の電停の最寄りには高校・大学やショッピングモール、新興住宅地などがある。車両基地や国道4号線を超えて大きな川を渡るために新設された専用橋梁あたりに差し掛かると、山間部に入り、市街地を走行する一般的な路面電車のイメージとは異なる風景が広がっていく。さらに進むと、沿線には工業団地が増えてきて、終点の「芳賀・高根沢工業団地」の電停のすぐそばには、自動車メーカーの巨大な工場がある。沿線には今回の宇都宮ライトレール開通を歓迎するポスターや垂れ幕があちこちで見られ、開業間もないこともあってか乗客もかなり多く、カメラを持った鉄道マニアも多く見られた。

将来的に、このLRTはJR宇都宮駅の西側方面への延伸も計画されているという。実のところ、宇都宮は以前からJR宇都宮駅の西側のほうが発展している。JR宇都宮駅から徒歩で2kmほど西に離れたところに東武宇都宮駅があり、両駅間のエリアが最も人の往来が多い。有名な二荒山神社などもそのエリアにある。西に行くと栃木を代表するマンモス高校があり、さらに奥にある有名な大谷石の博物館までの路線計画もあるようだ。一般にLRTに期待される役割としては、地方都市の人の往来を盛んにして地方活性化の起爆剤とするだけでなく、環境に配慮した交通機関という側面があり、宇都宮ライトレールが建設された背景にはそうした面もある。今回開業した宇都宮ライトレールが成功するかどうかは、全国の地方都市が大いに注目している。

この宇都宮ライトレールにおいて特徴的なのは、郊外の工業団地に向かう深刻なバス渋滞を解消する目的が大きかったということだ。こうした工業団地は海外との競争にさらされやすいため、もし工場の撤退などがあった場合はどうなるのか、少し気になった。

もちろん、最近ではバスの運転手不足による路線の運行休止なども問題となっており、一度により多くの人を運ぶことができ、本数も多い宇都宮ライトレールに対する期待は大きい。工場、観光地、学校、商業施設や住民の年齢層など、街を形成する要素がもう少し多様化されていると、宇都宮ライトレールが地域活性化の成功事例となる可能性は高まるだろうと感じた。街づくりにも今後は多様性(ダイバーシティ)という視点が必要になりそうだ。

(※1)75年前(1948年4月10日)に、富山地方鉄道高岡軌道線(現在の万葉線)の地鉄高岡~伏木港間7.3kmの路線で開業した。しかし、1971年にはその一部路線(米島口~伏木港間)が廃止となっている。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄