民需主導の自律的な経済成長と財政健全化の両立を

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2023年12月27日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

2024年は日本政府が「民需主導の自律的な経済成長と財政健全化の両立」に取り組む正念場の一年となるだろう。

筆者が、特に注力してほしい政策は以下の5点である。

第一に、継続的な賃上げを実現するためには、労働生産性を引き上げることが喫緊の課題だ。そのためには、①人的資本を中心とする無形資産投資を促進して、労働者の「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」を向上、②グリーン化、デジタル化、規制改革などを通じて、企業の成長期待を高める、③企業の新陳代謝を促すことで、適切な価格転嫁を後押し、④「失業なき労働移動」を進めて、経営者が好況期に社員の賃金を安心して引き上げられる環境を整備、⑤外国人高度人材の活用や女性のさらなる活躍を推進して、ダイバーシティ(多様性)を高め、イノベーション(技術革新)を起きやすくする、⑥デジタル化や組織のフラット化などを進めて、企業や政府の業務効率を改善、⑦コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化、といった、わが国の労働生産性引き上げに向けた多面的な施策を同時並行的に講じる必要がある。

第二に、わが国の成長戦略の柱として、GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)を不退転の決意で推進するべきだ。GXに関しては、経済と環境の好循環実現に向けたカーボンプライシング(炭素税、排出量取引等)の導入に加えて、鉄鋼会社、自動車部品会社などの円滑なトランジション(移行)をサポートすることなども重要だ。

第三に、成長戦略の「一丁目一番地」である規制改革には、引き続きしっかりと取り組んでほしい。特に、医療・教育分野のデジタル化や、エネルギー分野の規制改革などが極めて重要である。最近、急速に国民の注目度が増している「ライドシェア(自動車の相乗り)」に関する規制改革も正面から議論せねばなるまい。

第四に、全世代型社会保障制度の構築や少子化対策の推進などを通じて、国民の将来不安を解消することに注力するべきだ。今後は「人生100年時代」なので、「能力に応じて負担し、必要に応じて給付し、持続可能な制度を次世代に伝える」という全世代型社会保障の基本理念に照らして、負担能力のある高齢者には支え手に回っていただき、医療提供体制の改革や社会保障給付の効率化などを通じて、現役世代の負担増を抑える一方で、勤労者皆保険の実現や少子化対策の強化などに取り組む必要がある。

第五に、「資産所得倍増プラン」や「資産運用立国」の実現に向けた施策を着実に推進することが肝要である。2024年は、非課税投資枠の拡大や投資期間の無期限化などを柱とする「新NISA制度」がスタートすることもあり、わが国にとって長年の課題だった「貯蓄から投資へ」という資金シフトの実現に向けた期待感が非常に高まっている。

「保守(Conservative)」の語源を調べてみると、「防腐剤」という意味合いもある。国民に寄り添い、その声に謙虚に耳を傾けつつ、より良い未来に向けて不断の改革を図ることこそが、大切な美点を守り抜くことを可能にする。日本政府には、自由闊達な議論を通じて、日本の未来について長期的、多面的、そして根本的に考察した上で、わが国が進むべき道筋を国民に提示してほしい。

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熊谷 亮丸
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