中国:肩透かしに終わった独身の日のネットセールと「国進民退」

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2023年12月11日

中国の調査会社である星図データによると、2023年10月31日20時から独身の日(11月11日終日)までのネットセールの売上高は前年同期比2.1%増の1兆1,386億元(約24兆円)にとどまった。業界第2位のJD.comの創業記念日である6月18日(6月1日~18日)のネットセールと併せて年2回の大セール時期に、消費者の財布のひもが緩んでもおかしくはなかったが、そうはならなかった。報道によると、売上上位には、家電、スマートフォン、服装、コスメ、靴・カバンなどの耐久消費財や日用品が並び、キーワードは「最安値」だった。「爆買い」に象徴されるかつての勢いは完全に失われている。

ネットセールが期待外れに終わった背景の1つに、若年層の消費意欲の低下がある。かつて中国の若者は、毎月の給料を使い尽くす「月光族」と呼ばれた。しかし、コロナ禍以降、16歳~24歳の失業率は上昇傾向を強め、2023年4月に20%を超え、6月には21.3%を記録した。若年層の失業率は年々増加する大卒者(9月入学)が労働市場に参入する毎年7月にピークを付けてきたが、過去最高をさらに更新するとみられた2023年7月分から年齢別失業率(16歳~24歳、25歳~59歳)のデータの発表が中止されてしまった。「卒業即失業」という悲惨な状況の中で、若年層が節約に勤しんでいるのだ。

若年層の失業率が大きく上昇した主因は、①一定規模以上の企業では労働者を解雇する際に勤続年数に比例した補償金を支払う必要があり、企業にしてみれば、景気が悪化する中、若者の解雇が合理的な行動となること、②若年層の雇用吸収力が大きい産業が、政策の悪影響やコロナ禍、あるいは世界的需要減退によって不況に陥ったこと、などである。

上記②について、第7回人口センサス(2021年5月に発表)によると、2020年11月1日時点の若年層の就業先の構成比上位は、製造業、卸小売業、ホテル・飲食業、教育、建設業などであった。卸小売業やホテル・飲食業は3年にわたった「ゼロコロナ」政策による需要減退、教育は政府による規制強化によって、それぞれ大量解雇が相次いだ業種である。2021年7月には学習塾を全て非営利団体に移行させる規制が発表され、学習塾の9割以上が事業からの撤退を余儀なくされた。建設業は「不動産不況」の影響をもろに受けている。そして、こうした産業では民営企業のウエイトが極めて大きいのが特徴だ。

消費の伸び悩みにしろ、若年層の高失業率にしろ、源をたどると「国進民退」の悪影響に行きつく。「国進民退」とは政策の恩恵が国有企業に集中し、民営企業が蚊帳の外に置かれることを指す。遅きに失した感はあるが、2023年11月27日には、中国人民銀行が民営企業向けの融資割合を引き上げるよう、各銀行に要請するなど、「国進民退」からの脱却に向けた政策が打ち出されるようになった。これが奏功するのか、否かは、2024年の中国経済の行方を左右することになろう。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登