日本経済における物価高の明と暗

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2023年11月20日

  • 野間口 毅

内閣府が発表した10月の景気ウォッチャー調査(街角景気)では、現状判断指数、先行き判断指数とも前月比で3カ月連続低下し、両指数とも好不況の分岐点である50を2カ月連続で下回った。また、現状判断の理由としては「物価高の傾向が続くなかで、賃金上昇が追い付かず、食品を中心とする値上げは継続中であるため、客の財布のひもは固い」(東京都のショッピングセンター)、先行き判断の理由としては「円安が止まらず、資材や製品価格の値上がりが今後も続くと予想されるため、消費者心理への影響を懸念している」(東京都の住宅関連専門店)など、物価高の影響を懸念するコメントが目立った。

物価高の影響は賃金や消費の統計にも顕著である。厚生労働省が発表した9月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、実質賃金指数が前年同月比で2.4%低下した。低下幅は8月の同2.8%から縮小したが、18カ月連続で低下した。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は同1.2%増と21カ月連続で増加したが、3%台が続く物価上昇率に名目賃金の増加率が追い付かない状況が続いている。

また、総務省が発表した9月の家計調査(2人以上の世帯)では、実質消費支出が前年同月比で2.8%減少した。減少率は8月の同2.5%から拡大し、7カ月連続で減少した。食品や住宅向けの支出が減り、実質消費支出を押し下げた。日本銀行が発表した9月の実質消費活動指数(旅行収支調整済)が前月比で5カ月ぶりに低下したこともあり、今春の大幅な賃上げが個人消費の底上げに寄与していない状況が続いている。

物価高の影響で実質賃金や実質消費が減少する一方、値上げ(価格転嫁)のメリットを享受する企業は増加しており、物価高の一因である円安は輸出企業の利益を押し上げている。実際に、財務省の法人企業統計調査によると、全産業の経常利益(原数値)は2023年4-6月期に過去最高益を更新し、大和証券エクイティ調査部による企業業績見通しでは、主要上場企業の2023年度の経常利益が3年連続で過去最高益を更新する見通しである。また、法人企業統計調査による全産業(金融・保険を除く)の経常利益と名目GDPの推移を比較すると、両者の間には正の相関が存在する(図参照)。物価高の悪影響が続く可能性には注意が必要だが、来春も高水準の賃上げが続き、日本銀行が目標とする2%程度の物価上昇が定着すれば名目GDPの増加が続き、企業利益の増加も続くと考えられる。

日本の名目GDPと法人企業の経営利益

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