企業価値向上に向けて上場会社に高まるプレッシャー

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2023年11月17日

上場会社を取り巻く状況が近年様変わりし、東京証券取引所(東証)、アクティビスト・機関投資家、事業会社などの様々な主体から企業価値向上に向けたプレッシャーが大きくなっている。

東証は今年3月下旬に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」をプライム市場とスタンダード市場の全上場会社に要請した。これは、企業価値向上の実現に向けて、経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要と指摘し、改善に向けた方針や、具体的な目標の開示を要請したものである。東証の集計によれば、7月中旬時点で開示したのはプライム市場で3割程度、スタンダード市場で1割程度である。上場会社の対応をさらに促進するために、東証は10月下旬に対応会社の一覧表の公表などを追加策として出した。今後も状況次第で、さらなる取組みが実施される可能性がある。

アクティビストの動きも活発化している。東証の要請を活用して、上場会社に企業価値向上を迫る動きが見られている。株主還元の強化に加え、社外取締役の増員・取締役による株式保有・政策保有株式の縮減などのガバナンス改革に関連した提案が増えてきている。こうした提案はアクティビスト以外の伝統的な機関投資家の意向と軌を一にするものであり、上場会社への企業価値向上に向けた動きをより一層強める要因になっていると思われる。

最後に、経済産業省が今年8月に策定した「企業買収における行動指針」(以下、指針)に伴う事業会社による動きである。この指針は、上場会社の支配権を取得する買収において尊重されるべき原則が示されたものである。特に「望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきである。」という第1原則はそれぞれのM&A事例に対する評価軸を示すものである。「企業価値」を「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和」と定めており、買収提案を検討するにあたって測定が困難な定性的な価値を強調したり、従業員の雇用維持等を口実として経営陣の保身を図ることを否定している。PBR(株価純資産倍率)1倍を割れているなど株価が低位にある会社は、合理的な買収提案があった場合、提案に反対することが難しくなる可能性がある。企業価値を常に高める行動を取ることが、自社が買収されるリスクを低くすることにつながる。

こうした各主体の動きに対して上場会社の対応が注目されている。求められているのは企業価値向上に向けた形式的な対応ではなく、取締役会で資本コストや資本収益性を意識して経営資源の適切な配分を行うなどの中身を伴った実質的な対応である。上場会社の本気度が問われていると言える。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史