エストニア人女性が見たマイナンバーカードのリスクとは?
2023年11月15日
2023年9月末にマイナポイント制度の第2弾が終了した。この制度の第1弾が導入された2020年9月頃を振り返ると、国民のマイナンバーカードの取得意欲はかなり低く、ポイントを付与する制度を実施してもマイナンバーカードはあまり普及しないのではないかという意見が多かったように思う。しかし、マイナポイント第2弾によってポイントが付与される期間が延長されたことやポイント付与が拡充された効果もあり、マイナンバーカードの交付枚数は大幅に増加した。
総務省によると、2020年9月初め時点の交付枚数は2,469万枚(人口の19%程度)にとどまっていた。しかし、マイナポイント第2弾におけるマイナンバーカードの申請締切日から1ヵ月後の2023年3月末には8,440万枚(同67%程度)と3倍超に増加した。交付枚数に関しては、大方の予想を大きく上回る結果になったと評価できる。
今後は、2026年中に導入予定の次期マイナンバーカードの動向が焦点となろう。デジタル庁は、マイナポイント第2弾が終了する少し前の2023年9月7日に「次期個人番号カードタスクフォース」の第1回会合を開催した。現行のカードよりもセキュリティー機能を高めるとともに、カードの記載内容の見直しなどが検討事項となっている。
筆者が注目しているのは、カード表面の住所の記載がなくなるか否かという点だ。このような問題意識を持っている背景には、2019年秋に視察したエストニアの「電子IDカード」の存在がある。電子IDカードの取得が義務化されており、行政手続きの99%が電子化されているエストニアは世界最先端の電子国家として知られている。日本のマイナンバーカードや行政DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進に向けた情報収集等のために、これまで日本から多くの人が視察に訪れている。
日本からの相次ぐ訪問を背景に、現地で対応してくれた「e-Estonia」の女性担当者も日本のマイナンバーカードについてある程度把握していた。そして、カードの記載内容について、エストニアの電子IDカードは、日本と異なり住所は記載していないと指摘した。本来、個人番号が記載されていれば、個人を識別するために住所のような情報は別途必要ない。さらに、カードを落とした場合、拾った人に顔と住所を同時に把握されることになり、女性目線からリスクを感じるとのことであった。
日本では、カードの記載内容のうち住所はあまり気にならない一方、個人番号について気になるという人は多いと思う。個人番号を隠すためのフィルムケースが配られているのは、他人に見られることを心配する人への配慮という側面もある。しかし、防犯面からは、数字を羅列した個人番号より居住地を示す住所の方がリスクは大きいという見方もできる。この点に関しては、いまだに誤解されることもあるが、個人番号を知られただけでは直ちに悪用されない仕組みになっていることも重要なポイントだ。
今後、次期マイナンバーカードを巡る議論では、世界的に有名なエストニアの電子IDカードなど諸外国の事例を踏まえた上で、住所の記載の有無についても検討されるのではないかと考えている。なお、将来的に、本人確認情報として住所の代わりに個人番号を利用できるといった状況になれば、女性目線のリスク要因などを踏まえ、住所はなくしてもよいというのが筆者の立場だ。いずれにせよ、性別や年齢等にかかわらず、より便利で安全・安心な次期マイナンバーカードが予定通り2026年中に登場することに期待したい。
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金融調査部
主任研究員 長内 智
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