中国:一段と深刻化する不動産不況。ただし金融危機の連想は時期尚早?

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2023年09月11日

中国の「不動産不況」が一段と深刻化している。8月17日には中国恒大集団(エバー・グランデ。以下、恒大)がニューヨークの裁判所に米連邦破産法第15条の適用を申請したことが大きなニュースとなったが、実は大した話ではない。破産=倒産のイメージがあるが、これは外貨建て債務の再編のための時間稼ぎが目的である。より深刻なのは、大手デベロッパーの碧桂園(カントリー・ガーデン)が債務不履行(デフォルト)寸前に追い込まれたことである。そもそも恒大は、2020年8月に導入された中国版総量規制で、負債関連の3つのレッドラインに3つとも抵触し、年間の有利子負債増加率は「0%以内」とされた。恒大は、EV(電気自動車)、飲料水、テーマパーク、サッカークラブといったシナジー効果が期待し難い分野に経営の手を広げるなど、借金に依存した乱脈経営がたたった。一方で、碧桂園は当時、3つのレッドラインに1つしか抵触しておらず、年間の有利子負債増加率は「10%以内」とされた。同社は「真っ当なデベロッパー」(中国の政府系シンクタンク)であるが、民営のデベロッパー=デフォルトリスクが高い=倒産リスクが高い、との連想によって、購入者が敬遠→売上減少→巨額赤字計上→資金繰り悪化という負のスパイラルに陥ってしまったのである。不動産不況はフェーズが一段悪化したといえる。

こうなると、不動産不況は金融危機につながるのか?との懸念が台頭するが、中国の銀行のデベロッパーへのエクスポージャーは思いのほか小さい。銀行貸出全体に占めるデベロッパー向け貸出は2023年6月末時点で6.1%にとどまる(最大ウエイトは2019年3月末の7.6%)。一方で、住宅ローン向けなどの割合は6月末時点で18.8%(最大ウエイトは2020年12月末の21.8%)と比較的高い。それではどのような場合に、不良債権化するリスクが高まるのであろうか。中国政府は1軒目の住宅を実需とみなし、頭金の割合を低く抑えて購入を促進している。北京市の場合は35%だ。一方、2軒目は投資・投機需要とみなし、北京市の場合、頭金の割合は60%(高級物件は80%)に跳ね上がる。銀行は残りの部分について住宅を担保にローンを提供するので、物件の価格が頭金の割合以上に下落し、購入者が住宅ローンの返済ができなくなった時には、不良債権化のリスクが大きく高まることになる。

日本のバブル崩壊の経験に鑑みれば、だから安心とはいえない。ただし、これだけ「不動産不況」と騒がれながらも、需要と供給の縮小均衡が奏功し、今のところ70都市の新築住宅価格(2023年7月)は、前年比0.6%の下落にとどまっている。今後の動向を注視する必要はあるが、今から過度に悲観的になる必要はないのではないか。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登