米金融政策を考える上での注目点はFed Watcher?

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2023年09月01日

「米国の金融政策を考える上での注目点は何ですか」。筆者がよく聞かれる質問の一つだ。利上げが最終局面を迎える中で、利上げ停止の時期や利下げまでの距離感など、金融政策の転換点に関する諸論点が当面の注目点であることに異論はない。とはいえ、筆者個人としては、こうした論点に加えて、大学やシンクタンクの研究者、市場エコノミスト、各メディアの記者など、FRBの動向を観察・分析する人々(=Fed Watcher)の言動に注目している。特に注目しているのは、FOMCの声明文公表後にパウエルFRB議長が出席する記者会見に参加する各メディアの記者の言動だ。

通常、金融政策の注目点を探るのが各メディアの記者であり、金融政策を考える上での注目点が各メディアの記者の動向というのは主客転倒にも感じられるだろう。しかし、パウエル議長は、金融政策運営において市場を驚かせたくないと常々述べており、各メディアの記者はFRBと市場の円滑なコミュニケーションを促す重要な役割を担っている。例えば、フォワードガイダンスでは0.50%ptの利上げを示唆していたにもかかわらず、0.75%ptの利上げを急遽決断することとなった2022年6月14日・15日のFOMCはメディアの記者が活躍した典型例である。市場が0.50%ptの利上げを想定する中で、ウォール・ストリート・ジャーナルのNick Timiraos記者が6月13日に0.75%ptの利上げの可能性を示唆する記事を掲載したことで、市場における0.75%pt利上げの織り込みが急激に進み、サプライズを抑制できた。これ以降、同記者の記事が金融政策を見通す上で一層注目されることとなった。

しかし、同記者だけに注目すればいいという単純な話ではない。各メディアの名物記者が金融政策の先行きを見通す上で重要となる論点を提示するために、日々しのぎを削っている。つまり、市場参加者は、どのFed Watcherが重要なメッセージを発しているかを察知しなければならない。その判断方法として、ニューヨーク・タイムズのJeanna Smialek記者が良い例になるだろう。

同記者は8月7日にウィリアムズ・NY連銀総裁のインタビューを掲載し、中立金利が上昇している可能性など、8月24日-26日開催のジャクソンホールでの金融政策に関するシンポジウムにおいて重要となる論点を提示した記者である。そもそも、同記者は2023年7月25日・26日のFOMC後の記者会見で注目の的となった記者だ。同記者はパウエル議長に、米国で大ヒットとなった映画「バービー」や、大反響となったテイラー・スウィフトのコンサートツアーを引き合いに出し、堅調な個人消費が今後のインフレや金融政策に与える影響について質問した。人々にわかりやすい切り口での質問に加えて、同記者自身も映画「バービー」を彷彿とさせるピンクの洋服を着ていたことも話題となった。つまり、FOMC後の記者会見で話題となった記者に注目することは、金融政策の先行きを考える重要な手がかりとなり得る。

ジャクソンホールでのシンポジウムが終わった後、同記者は各メディアのシンポジウムを評価する記事のタイトルを比較し、これまでに見られないくらい多様化していると指摘している。つまり、今後の金融政策に対する見方は依然として不透明ということだ。次はどのFed Watcherが重要なメッセージを発するのだろうか。金融政策の先行きを考える上で、9月19日・20日に開催されるFOMC後の記者会見の一挙手一投足から目が離せない。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐