新NISAで増える株式関係書類と電子提供の遅れ

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2023年08月16日

2024年1月の新NISA(少額投資非課税制度)の開始時期が少しずつ近づいてきた。新NISAを活用して新たに投資を始めようと検討している人は多いとみられ、今後、個人投資家のさらなる増加が期待される。こうした中、今回は、筆者が過去のコラムで取り上げた少しニッチなテーマを再度取り上げたいと思う。

今から5年以上も前の2017年12月、「増える配当と減らぬ紙」というタイトルのコラムにおいて、筆者は長期個人投資家の立場から、株式関係書類について「紙の郵送物をネット上の証券口座での電子提供に切り替えるべきではないか」と述べた(※1)。この背景には、企業のコスト削減や環境面などの観点から、大量に届く紙の株式関係書類をペーパレス化して減らすべきという問題意識があった。

その後、2022年9月1日に施行された改正会社法により、2023年3月以降に開催される株主総会から株主総会資料の電子提供制度が開始され、株式関係書類の電子提供の動きは徐々に進みつつある。しかし、依然として「紙」が非常に多く利用されているというのが実態であり、世界的な金融DXの進展や環境意識の高まりといった潮流を踏まえると、改善の余地はかなり大きいと考えている。

株式関係書類の電子提供の動きが遅い理由の1つとして、政府等の議論で個人投資家が受け取る紙の郵送物の実態が十分認識されていない可能性が挙げられる。当然ながら、こうした指摘に対しては、有識者等が個人投資家の実態も踏まえた議論を行っており、そのようなことはないという反論も想定される。そこで、「百聞は一見にしかず」という点から、筆者が受け取った2023年3月期決算企業の株式関係書類(うち期末配当金情報あり)を写真で確認したい。

2023年3月期決算企業の株式関係書類(うち期末配当金情報あり)

この写真の様子を一言でいえば、「株式関係書類の山」といえよう。筆者は、長期的に分散投資を行っており、さらに企業のビジネスモデルや産業動向の勉強といった視点でも投資をしていることから、投資先企業数は平均的な個人投資家より多いと思われる。ただし、昔に比べて、公共料金やクレジットカードなど様々な分野で紙の郵送物が大幅に減少していることを勘案すると、現在、自宅に届く紙の郵送物の中で最も多いのは株式関係書類という個人投資家は少なくないだろう。

さらに、新NISAでは、成長投資枠で高配当株や成長株に分散投資することが投資戦略として取り上げられることがある。実際、個別株に分散投資を行う個人投資家が増えれば、株式関係書類の総量もその分増加する。こうした点などを踏まえると、株主関係書類の電子提供を今以上に推進するメリットは決して少なくないと考えられる。

2017年12月のコラム以降、世界的に金融DXが進展し、環境意識が高まっているにもかかわらず、依然として紙の株式関係書類が大量に届く現状を憂いつつ、新NISAで個人投資家が増加すると見込まれる中、電子提供の議論や実施が今後一段と進展することを是非とも期待したい。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智