日本酒から考える組織のあり方

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2023年06月30日

  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

新入社員の頃、宴席で日本酒が出てくると青ざめたものだ。味も得意ではなかったが、注がれた酒は断りがたく、したたかに飲み悪酔いするイメージが強かったからだ。

日本酒の味も随分と変わった。国内では低価格のビールやリキュールに押され消費量は減っているが、高単価の純米酒・純米吟醸酒は比率が増加している(※1)。「SAKE」は世界各国の料理に合う食中酒として認知が拡大し、輸出額は過去最高を記録(※2)した。

「安くて悪酔い」から「高級な嗜好品」に変えたものは何か。消費者の志向の変化など様々な要因があるが、筆者は造り手の多様化が特に大きいと考える。酒造りを担う杜氏は男性が一般的であったが、高齢化により世代交代が進み若者や女性、外国人の杜氏が誕生した。多様な感性を活かしながら、消費者のニーズをくみ取った酒造りや独自性を追求する蔵元が増えている。

旅行先で蔵元に立ち寄ったところ、地元で長年愛されている手頃な一般酒のほか、伝統的な手法で造られた生酛造りの酒、地元産の酒米を使った純米酒、近隣の湖底やスキー場の雪の中で貯蔵したものなどバラエティに富んだ日本酒が並んでいた。蔵の方によると、製造技法を探求するためジンや焼酎も手掛けているとのことであった。

多様性は醸造技術の改革にも及ぶ。ベテラン杜氏の勘や経験をデータ化してAIを駆使した製法を取り入れる蔵や、大学の農学部を卒業後に研究所と連携して科学的な醸造に取り組む杜氏も耳目を集める。さらには日本酒の製法を活かしながら新しい酒造りに取り組む蔵もある。

ホームページをのぞくと酒造りへの想いや理念、既成概念を打ち破る新しい挑戦のエピソードにあふれている。水や米、土にまでこだわり、地元とのつながりを大切にしている蔵も多い。造り手の想いや産地の風景、ストーリーは味わいに一層の奥行きと深みを与える。

これらは組織のあり方として注目される多様性やパーパス経営、地域経済エコシステムやDXにも通底する。市場が縮小し造り手が高齢化する中で、環境に適応することにより豊かに醸され深化を遂げているのではないか。

四半世紀近い時を経て、上司に対し飲酒を断ることが当然の権利となった。組織の風通しの良さや座の心理的安全があるからこそ、会話とともに酒を楽しむことができると言えよう。さて、次は誰と一献を傾けようか。

参考文献
「酒仙人直伝よくわかる日本酒」(NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会))

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廣川 明子
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コンサルティング企画部

主席コンサルタント 廣川 明子