中国のローカルBBQとインバウンドへの示唆

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2023年06月12日

中国の淄博(しはく)BBQをご存じだろうか。淄博市は中国山東省の中部に位置する地方都市であり、紀元前11世紀~紀元前3世紀の西周・春秋戦国時代には斉の国の首都があった。とはいえ、日本での知名度は高くないであろう。かくいう私もこれまでこの淄博市のことを意識したことはなかった。淄博BBQは薄餅(中国風クレープ生地)に串焼きの肉とネギ、調味料を挟んで食べる。安くて美味しそうで、ビールが合いそうな、いわゆるB級グルメである。なぜ、これが中国のSNSを席巻したのであろうか?

話の始まりは第2次コロナショック下の2022年5月である。山東大学の学生1.2万人が淄博市で集団隔離を余儀なくされた。同市は学生たちの面倒を親身にみて、毎食弁当では可哀そうだとして、ある日、市内の串焼き店の屋台を集め、名物のBBQをふるまったのだという。BBQの美味しさと、政府や人々の心遣いとやさしさに感動した大学生たちは、「ウィズコロナ」政策に転換した2023年に入ると、淄博市に再び赴き、観光や淄博BBQを堪能した。この様子がSNSで拡散され、まずは大学生の間で大バズリとなり、それは親世代にも広がっていった。これを好機と見た市政府は、大キャンペーンを開始。専用列車やバスの増便、市内無料送迎や一部宿泊施設の無料開放などを行い、大量の観光客の誘致に成功したのである。

現地報道によると、5月の連休中のホテル稼働率が高かった10都市は、淄博市(山東省)、威海市(山東省)、南京市(江蘇省)、大理市(雲南省)、武漢市(湖北省)、延吉市(吉林省)、長沙市(湖南省)、麗江市(雲南省)、景徳鎮市(江西省)、済南市(山東省)であった。山東省から3都市が入ったのが特徴である。

実はこれも淄博BBQ効果によるものであった。淄博市はネットカフェ、映画館、レストラン、家具屋まで総動員して宿泊場所の確保に努めた。しかし、あまりの人気ぶりに、十分なサービスが提供できないとして、ブームが落ち着いてからの来訪を呼び掛けた。山東省には他にも魅力的な都市があると紹介し、観光客の分流を図ったのである。これも誠実な対応として、世間の評判を高めることとなった。

と、ここまで書いてきて何なんだが、上記の話はいろいろな派生形があり、どこまでが真実なのかよく分からない。しかし、ここからいくつかのキーワードを抽出することができる。例えば、「若者(大学生)」「親世代」「SNS」「低価格」「美味」「名物」「ローカル色」「町おこし」「個性」「人情」「思いやり」「共感」「感動」そして「ストーリー」である。これらのいくつかの組み合わせはまさに、中国人観光客が日本観光で求めるものと一致する。中国でのコト消費の広がりは本物であり、我が国のインバウンド消費にも一段の追い風が吹いているように思える。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登