サマリー
◆2025年12月に「人工知能基本計画(以下、基本計画)」が閣議決定され、「信頼できるAI」を中心概念に据えつつ、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指す方針が強く打ち出された。「信頼できるAI」をOECDのAI原則から整理すると、人間中心の価値観・公平性や頑健性・安全性を重要視していることがわかる。米国やEUの取り組みを見ると、日本とは重要視している項目やアプローチが異なる。日本が引き続き国際協調の枠組みづくりを主導していくためには、評価基準の整合など課題も多い。
◆基本計画では「信頼できるAI」の実現に向けた日本の強みとして「質の高いデータ」をあげ、医療・研究・産業分野を例示している。しかし、整備や利活用の進展度合いには分野差が見られる。医療・研究分野は、公共性が高く、政府や研究コミュニティが基盤整備を主導しやすいため、データや利用環境が比較的整いやすい。他方、産業分野では、分野・業界を超えた連携の技術的整理が進みつつある一方で、企業間連携や中小企業を中心とするDXの遅れから、現時点で「質の高いデータ」が産業全体に一定程度存在するとまでは言い難い。
◆また基本計画では、AI関連の開発や投資の出遅れについて問題意識を示している。汎用基盤モデルの国際的上位層は米国や中国が主導し、日本の存在感は現時点で限定的である。さらに、計算資源(GPUクラスター)の国際的偏在や、民間投資規模の差も踏まえると、日本は競争力あるAIモデルを継続的に開発・運用するための前提条件が十分に整っていない可能性が示唆される。
◆「信頼できるAI」という趣旨に照らし合わせると、日本の文化や習慣に適合したAI基盤モデルの開発と一定の自律性確保、ならびに信頼性が求められる領域で質の高いデータを用いて社会実装を積み上げるという基本計画の方向性は望ましい。一方で、基本計画が示すデータ整備などの課題解決には一定の時間を要し、実現に向けた具体的な施策や実行力、スピード感については不安が残る。政府は2026年春をめどに官民投資ロードマップを取りまとめる方針を示しており、引き続き動向を注視していく必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
AIの社会実装と加速するインフラ投資
2025年のAI動向と2026年の展望
2026年01月28日
-
世界が再注目、実現に動き出すソブリンAI
日本のAI基本計画が描くデータ主権と技術的自立への道筋
2025年11月19日
同じカテゴリの最新レポート
-
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日
-
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
-
2026年1月鉱工業生産
普通乗用車などの大幅増産により自動車工業が生産全体を押し上げ
2026年02月27日
最新のレポート・コラム
-
人工知能基本計画が目指す信頼できるAI
「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」は実現できるのか
2026年03月03日
-
「SaaSの死」は何を意味するのか?
AIエージェントが促すSaaS業界の構造変化、経済社会・雇用への波及
2026年03月03日
-
いまさら人には聞けない 公開買付け(TOB)のQ&A【改訂版】
2024年金商法等改正法(2026年5月1日適用開始)を反映
2026年03月02日
-
中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに
原油価格100ドル/バレルで26年度の実質GDP成長率は▲0.2%pt
2026年03月02日
-
PERはなぜ上がらない?──市場が見ているのは「価値創造ストーリー」が描く未来
2026年03月02日
よく読まれているリサーチレポート
-
中国によるレアアース・レアメタルの輸出規制は日本の実質GDPを1.3~3.2%下押し
供給制約により、自動車産業を中心に生産活動の低迷が懸念される
2025年12月05日
-
2026年の日本経済見通し
1%弱のプラス成長を見込むも外需下振れや円急落、金利高等に注意
2025年12月23日
-
2026年度税制改正大綱解説
給付付き税額控除導入を含めた所得税の抜本的改革が必要
2025年12月25日
-
中国経済:2025年の回顧と2026年の見通し
不動産不況の継続と消費財購入補助金政策の反動で景気減速へ
2025年12月23日
-
「飲食料品の消費税ゼロ」の経済効果
世帯あたり年8.8万円の負担軽減になり個人消費を0.5兆円押し上げ
2026年01月20日
中国によるレアアース・レアメタルの輸出規制は日本の実質GDPを1.3~3.2%下押し
供給制約により、自動車産業を中心に生産活動の低迷が懸念される
2025年12月05日
2026年の日本経済見通し
1%弱のプラス成長を見込むも外需下振れや円急落、金利高等に注意
2025年12月23日
2026年度税制改正大綱解説
給付付き税額控除導入を含めた所得税の抜本的改革が必要
2025年12月25日
中国経済:2025年の回顧と2026年の見通し
不動産不況の継続と消費財購入補助金政策の反動で景気減速へ
2025年12月23日
「飲食料品の消費税ゼロ」の経済効果
世帯あたり年8.8万円の負担軽減になり個人消費を0.5兆円押し上げ
2026年01月20日

