温室効果ガス排出削減の新たな概念、Scope4とは?

RSS

2023年05月29日

パリ協定の達成に向け、多くの企業が温室効果ガス(GHG)排出量の削減に取り組んでいる。削減対象は、Scope1:直接排出(発電や車・船・飛行機などを動かすための化石燃料の燃焼、セメントや鉄など製品の製造過程で起きる化学反応によるものなど)と、Scope2:間接排出(他社から供給される電気や熱の利用など)が基本だが、Scope3:その他の間接排出(従業員の通勤や出張、サプライチェーンの排出など)にも広がっている。

GHG排出量の算定や開示方法は、GHGプロトコルイニシアチブ(※1)が作成するGHGプロトコルを参照することが一般的だが、近年、このGHGプロトコルに記載のない“Scope4”という新たなカテゴリが注目されている。“Scope4”はGHG排出量ではなく、企業がビジネスを通じてGHG排出削減に貢献した量(削減貢献量:Avoided emissions)を示すものだ。社会全体でGHG排出量を削減するためには、再生可能エネルギーや電動車の普及など様々な取り組みを進める必要がある。一方、その過程でこれらのビジネスに関わる企業のバリューチェーンにおいては、関連製品の製造・販売の増加に伴いGHG排出量も増加するというジレンマが生じ得る。“Scope4”はこのジレンマを解消するものとして期待されている。

“Scope4”(削減貢献量)の議論は以前から存在したが、製造者と消費者のダブルカウントの問題、ベースライン(旧製品)との比較の難しさなどからグリーンウォッシュの懸念も指摘され、世界的にあまり注目されてこなかった。しかし、脱炭素社会への移行を加速させる上でその重要性が改めて認識されるようになり、2023年4月に札幌で開催されたG7の気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケでは「『削減貢献量』を認識することも価値がある」との文言が盛り込まれた(※2)。

様々な団体が削減貢献量の算定の範囲や方法等について検討を始めている。2023年3月にはWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が“Guidance on Avoided Emissions: Helping business drive innovations and scale solutions towards Net Zero”を公表、経済産業省が主導するGX経営促進ワーキング・グループも「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」を公表し、その中で削減貢献量の開示・評価にあたっての基本的な考え方を示した。金融セクターでは、2023年5月にフランスの資産運用会社Mirovaやオランダの資産運用会社Robecoなど11社が連名で、削減貢献量の算出に必要な情報のデータベースの作成、上場企業の削減貢献量の推計などに取り組むことを打ち出している。

企業が独自に開示する事例も増えつつある。日本では既に帝人やコニカミノルタなどがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく開示の中で、CO2削減貢献量の目標を設定するなどしている(※3)。英国のエンジニアリング・ソフトウェアプロバイダであるAVEVAグループや、米国の電力会社であるPG&Eも、“Scope4”の算定・開示に取り組む意向を示している(※4)。官民のこうした動きを見ると、今後“Scope4”(削減貢献量)の算定・開示の基準策定の議論は急速に進むのかもしれない。

(※1)世界共通で利用できるGHG排出量の算定、報告基準の開発を目的にWRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が立ち上げたイニシアチブ。

(※4)AVEVA Group, “Connection the industrial world –Integrated Annual Report and Accounts 2022-” p.67、PG&E, “Climate Strategy Report” p14(June 2022)

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美