SWIFT誕生50周年に影を落とす金融ブロック化の芽

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2023年05月17日

一般にはほとんど知られていないと思われるが、2023年は、国内決済と国際決済の中核をなすシステムや運営組織にとって、50年という大きな節目の年となる。

国内決済に関しては、「全銀システム」(全国銀行データ通信システム)が1973年4月9日に稼働した。全銀システムは、国内の振込といった内国為替取引などを行うための決済システムであり、「全銀協」(一般社団法人 全国銀行協会)傘下の「全銀ネット」(一般社団法人 全国銀行資金決済ネットワーク)が運営している。

国際決済に関しては、「SWIFT(スイフト)」が1973年5月3日に設立された。SWIFTとは、国際送金に関する情報通信サービスを提供している「国際銀行間通信協会(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)」のことをいう。なお日本では、同協会が提供している国際送金ネットワークシステムのこともSWIFTと呼ぶケースが多い点に留意したい。

SWIFTのシステムが提供しているのは、異なる国・地域の金融機関の間で国際送金を行う際、標準化された電子的な送金メッセージ(指示書)を安全かつ信頼性の高い方法で伝達するという「金融メッセージング・サービス」だ。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアの一部銀行をSWIFTから排除するという金融制裁措置が実施され、世界的に注目を浴びたことは記憶に新しいだろう。

全銀システムとSWIFTのシステムは、長い年月をかけて、接続先の拡大やシステム更改を通じ、利便性の向上や安全性の強化、処理能力の増強を図ってきた。その結果、現在では、消費者や企業にとって、目に見えない裏方の金融システムとして欠かせない存在となっている。さらに、SWIFTのシステムは、これまで経済と金融のグローバル化の進展を国際送金という側面から支えてきた。

しかしながら、将来を展望すると、国際決済分野における「金融ブロック化」の動きに注意が必要だ。この背景には、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を一つの大きなきっかけとする、中ロなどの権威主義陣営と日米欧などの民主主義陣営との対立激化が存在する。SWIFTからの排除という制裁を目の当たりにした権威主義国家の一部は、今後の制裁リスクを懸念し、米ドルでなく中国人民元による決済を部分的に利用したり、外貨準備として「金」の購入を増やしたりしている。

今年、日本が議長国を務めるG7(主要先進7ヵ国)の立場から国際社会を眺めていると、G7をはじめとする民主主義国家が世界の主流という認識に陥りやすい。しかし、スウェーデンのV-Dem研究所が公表している報告書(2023年)に基づくと、2022年の世界の人口の72%は非民主主義国家と分類される国に属しており、人口比でみると、民主主義国家は世界で少数派だ。

当面、国際決済分野でSWIFTを中心とした「米ドル一強体制」は揺るがない一方、長期的には、中ロなどが独自の国際決済網を構築し、金融のブロック化もしくは重層化が徐々に進む可能性が高いと筆者は考えている。それほど、今回のSWIFTからの排除という制裁の衝撃は大きかったと思う。また将来的に、人口面で世界の大勢を占める非民主主義国家が中ロ側にどの程度参加するかが大きな焦点だ。

ウクライナ侵攻の終わりが見えない中、その背後で火種がくすぶる、国際決済網を舞台とした権威主義陣営と民主主義陣営の対立構図についても引き続き注視していくことが重要となろう。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智