値段を通じた対話の始まり?

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2023年05月08日

身の回りのさまざまなモノやサービスの値段が上がっている。食用油やパン、チーズといった加工食品の価格、電気代・ガス代、美容院の料金など多岐にわたる。背景には、原材料価格の上昇、物流コストの上昇、円安、人件費の上昇などがある。

価格上昇は日本に限った話ではなく、世界的な現象であり、消費者物価上昇率で比較すれば、日米欧などの先進国の中で、日本のインフレはまだ相対的に低水準にある。ただし、日本の消費者物価はここ30年余り、消費税増税の影響を除けばほとんど上昇してこなかった。それだけに、最近の物価上昇をどう理解したらよいのか、どうつきあっていけばよいのか、とまどっている人は少なくないと見受けられる。

そもそも値段とはなんだろうか。多くのモノやサービスには値段がついており、日常生活を送るにあたって、私たちは値段を見て何を買うか買わないかを判断している。モノにしろ、サービスにしろ、それが提供されるまでには、材料費、輸送費、人件費などさまざまなコストがかかっている。それらのコストに、提供する企業の利益となるマージンを足して値段を決定するのがまずは基本だろう。

ただし、値段を決める際にはそれ以外の要素も関わってくる。例えば、売れ残りを回避するために、途中で値引きをして販売することがある。生鮮食品のように賞味期限が短い商品の場合、朝と夕方で値段が違うことすらある。電化製品の場合、新しい機能がついた新製品が販売されると、それまで販売されていた製品が大幅に値引きされることがままある。つまり、値段には製造コストや企業マージンのほかに、そのモノやサービスの需給バランスが逼迫しているのか、緩んでいるのかという情報も反映されている。

日本で長く消費者物価がほとんど上昇してこなかった一因は、企業間の価格競争が激しく、たとえ製造コストが上昇したとしても、販売価格に転嫁すればライバル社に売り上げを奪われるリスクが非常に大きかったためとされる。値上げを回避するために、企業は生産効率を高めたり、より安く生産できる場所に工場を移転したり、とさまざまな工夫を行ってきた。ただし、値上げ回避のための取り組みが、従業員の賃金の伸び悩みや低賃金労働者の増加につながり、平均的な購買力の低下を招いてしまった側面がある。

その日本で消費者物価が明確に上昇し、それが賃金上昇にも反映されつつある。日本のモノやサービスの値段は「こちらの方が安いよ」という情報ばかり伝えているという状況が長く続いたが、コストがこれだけ上がっているという情報がより見えやすくなってきたのではないかと考える。今は「持続可能性」が重要なキーワードだが、持続可能な経済を実現させるためにも、モノやサービスの価格がどういったコストの積み重ねで決まっているのか、なぜ他社製品より高いのかといった情報がもっと見えてくることが望ましいと考える。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子