米欧金融機関の経営破綻がもたらすもの
2023年05月01日
シリコンバレーバンク(SVB)など米国で相次いで発生した銀行の経営破綻は、欧州に飛び火してUBSによるクレディ・スイス・グループの買収劇にまで発展した。それ以上の金融不安の連鎖を引き起こさぬよう、米国やスイスにおいて必要な事後対応が取られたことで、金融システムを揺るがすような危機的な状況にまでは至ることなく事態は一応、収束に向かっているようにみえる。しかし、今回の事態を、長年に亘る金融緩和の中で生じてきた歪みが、金融引締めに転じたことで表面化したものとして捉えるとすれば、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在していると考えておくことが適切だろう。
今回起きた一連の事案、とりわけSVBの事案については、今一つ腑に落ちないところがある。SVBのビジネスモデルに特殊性があったことはその通りなのだろう。スタートアップやベンチャーキャピタル関連の事業に特化していたこと、大口法人預金が預金の大宗を占め、急速に流出したこと、多くの資金を長期の債券の満期保有に回して利鞘を稼いでいたため、預金の流出に伴ってその換金が必要となると、多額の金利リスクが顕在化したこと。しかし、金融当局からすれば、これらは、はじめから分かっていたことではないか。金融政策の転換に伴い、金利が相当程度、上昇することも当然予想されていただろう。もし、これが日本での事案だとすれば、金融庁や日本銀行による日常のモニタリングにおいて問題は把握され、改善に向けた取組みが強く促されていたはずだ。
SVBが経営破綻に至った過程についても、よく検証されていく必要がある。報じられている事実を見る限りにおいて、SVBが経営破綻に陥った直接の要因は、資本の不足ではなく、預金引き出しが相次いだことによる流動性の不足であったと考えられる。そうだとすれば、債券を担保に、最後の貸し手としての中央銀行が必要な流動性の供給を迅速に行っていれば、経営破綻、あるいは少なくとも突然の経営破綻は免れたのではないかという疑問が生じてくる。しかし実際には、そうした対応が取られる前にSVBは経営破綻に至り、FDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれた後に異例の預金全額保護が行われることとなった。預金の流出が速かったという事情はあるにせよ、こうした経過を辿ったことが結果として金融市場に不安を呼び起こしたことは否定できないだろう。
以上で見た通り、今回の事態の引き金となったSVBの事案をめぐっては、その監督上の対応についてなお多くの論点が残されていると考えるが、今後の議論はこれに留まらないかもしれない。リーマン・ショック後に導入された金融機関の資本および流動性にかかる国際ルールの強化など金融規制の見直しが取り沙汰されている。だが、冒頭にも述べた通り、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在している。規制強化の内容やタイミングを誤ると、金融政策の転換等を受けて既に発生し始めている信用の収縮を更に加速し、大幅な景気の後退につながりかねない。十分な注意が必要だ。
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専務理事 池田 唯一
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