量子コンピュータは、天使か悪魔か?
2023年04月26日
最近、量子コンピュータの文字をよく目にするようになってきた。昨年、政府の統合イノベーション戦略推進会議が発表した量子技術イノベーション戦略 ロードマップ改訂によると、量子コンピュータの実用化は2030年以降とされているものの、国際競争の状況を踏まえながら、実現を早める可能性がある旨も示唆されている。
内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局の令和5年度予算では、量子未来社会ビジョンの実現に向けた取組の推進として約420億円を積み上げており、国が腰を据えて取り組む姿勢のようにみえる。量子コンピュータの実用化は遠い未来の話でもなさそうだ。
さて、量子コンピュータは、金融分野ではポートフォリオの最適化、医療分野では創薬開発の高速化、インフラ分野では交通経路の最適化による渋滞緩和など、多くのメリットが期待されている。だが、一方では、その計算速度の圧倒的な速さゆえに、電子署名など現在広く利用されているRSA暗号等が解読されてしまうことが懸念されている。
もっとも、暗号解読の対抗策として、すでにNIST(米国国立標準技術研究所)を中心に耐量子暗号技術(PQC:Post-Quantum Cryptography)標準化プロジェクトが進められている。標準化の見通しは2024年のようだが、万が一、暗号解読の対抗策が確立されるよりも先に量子コンピュータの性能が飛躍的に進歩し実用化が早まった場合、現在、人々が設定している銀行口座のパスワードは何の意味も持たなくなる可能性があるわけだ。世の中を便利にするための技術の進歩が、同時に世の中を危険にさらすというジレンマに陥っている。
だから、技術革新の歩みを止めるべきと言っているわけではない。むしろ、大きなイノベーションを起こそうとしている今こそ、万難を排して、その副作用の可能性を洗い出すことに相応のリソース(ヒト・モノ・カネ)を傾けるべきである。加えて、NISTが主導する国際標準化の取り組みにも日本はこれまで以上に積極的に関与していくことが重要である。G7で唯一、アジアの国である日本は、国際標準を他のアジア諸国へ伝播する役割を担うべきでもある。
岸田首相が掲げる「新しい資本主義」における“科学技術・イノベーションへの重点的投資”では、量子技術のほか、AI実装も対象とされている。AIコンピュータが人間を支配する世界を描いた映画「ターミネーター」を現実のものとしないためにも、技術革新の副作用の可能性の洗い出しをどれだけできるかが、新しい悪魔を生み出さないためのカギであるはずだ。
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