金融不安や危機はなぜ繰り返されるのか

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2023年04月17日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

米国のシリコンバレーバンク(SVB)破綻をきっかけとする金融不安は欧州にも飛び火し、クレディ・スイス・グループが買収されるなどの動きにつながった。いずれも特殊な要因を抱えており、金融システム全体でみれば大きな危機に進展する事態は回避されるとの見方が強い。

それにしても、金融不安や危機は過去何度も繰り返されており、今回、「またか」と思った人も少なくないだろう。危機が起こるたび、当局は次の危機を回避するために様々な規制を導入し、金融機関もリスクマネジメントに力を入れてきたはずではないのか、と。

なぜ繰り返されるのだろうか。

諸説あろうが、根底には「金融」が経済の血液たる資金(マネー)の循環を担っていることがあることは間違いない。マネーは経済の隅々に行き渡っているため、どこかで目詰まりすれば、経済全体に影響が及ぶことになる。いわゆる「クレジット・クランチ」であるが、その発生への不安が「金融不安」を生む。たとえ小さいきっかけであったとしても、不安の連鎖は得てして過剰反応を生み易い。SVBの破綻も、預金者の過剰反応が引き起こした側面が強い。

もっとも、大きな金融危機の発生については、これまでの経験を踏まえて各国当局が打ち出してきた施策が相当程度の効果を発揮しているものと思われる。例えば、金融機関の自己資本の充実策、伝播を防ぐための施策、危機を招来するバブル発生の未然防止策などである。ただし、バブルの発生も完全には抑えきれない。経済成長に大小の波があるのは当然であり、同時並行的に資金循環に波が生じるのも、また必然と言えるからだ。

このように、伝統的な経路を考えても、コントロールするのは難しい。加えて金融システムが姿を少しずつ変えていることが、危機発生の抑制をさらに難しくさせているという面もある。

昨今、銀行や証券会社など伝統的な金融機関においては、世界的に収益性が低下傾向を辿ってきており、金融部門全体として経済における存在感が後退している感がある。これは規制の影響もあるだろうが、経済において、いわゆる「資本」が過去と比べて希少性を失っていることを意味するものでもある。つまり、一般企業が過去のように資本を欲していない可能性がある。この流れは、伝統的な金融機関を起点とする危機の発生確率を低める面がある一方で、例えば投資ファンドや年金基金などの存在感が増しており、これまで経験したことのない不安や危機を招く可能性は否定できない。

結局のところ、金融不安や危機の発生をゼロにすることはおそらくできない。そして金融部門における規制や監督によるコントロールにも限界がある。危機への耐性は、本来は、経済各主体が高めることが最も効果的なことは間違いない。企業は資金調達ルートの多様化を図り、いざというときの柔軟性を向上させる。家計も金融リテラシーを向上させて、デマなどに惑わされたりしない。そしてメディアも正確な情報を冷静に報道する。こうした組み合わせが必要だが、その大前提となるのは、金融部門からの正確かつ十二分な情報開示ということになるだろう。

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保志 泰
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